日本大百科全書(ニッポニカ) 「夜の賛歌」の意味・わかりやすい解説
夜の賛歌
よるのさんか
Hymnen an die Nacht
ドイツ・ロマン派の詩人ノバーリスの六編からなる連作詩。1800年刊。全編きわめて格調が高く、第1、第2、第3の散文詩のあと、第四、第五の賛歌で韻文を交えつつ、「死への憧(あこが)れ」と題された最後の韻文詩へ移行する。全編の核は第三の賛歌で、亡き婚約者ゾフィーの幻に出会った現実の夜の体験が歌われる。この体験でノバーリスは夜の世界に目覚め、それがこの連作詩をつくるもとになった。愛を完成させるには昼を捨てて夜、すなわち死の世界へ入ってゆかねばならぬというのが主題である。しかし単なる個人体験を歌ったのではなく、死に至って完成されるエロスの愛を神秘的、宗教的領域にまで高めて歌い上げた傑作である。
[平井俊夫]
『笹沢美明訳『夜の讃歌/他三編』(岩波文庫)』