賛歌は神への語りかけの一形態である。現存する古代賛歌の多くは供物(くもつ)、供犠を伴った祭儀的背景をもつものと思われる。
自分たちの運命、苦楽が人間を超越した神あるいは神々に依存すると考える古代の人間が、この超越した存在に対して家庭や共同体において祭祀(さいし)を行い、賛辞を呈することはきわめて自然なことであった。しかし神をほめたたえるに至る状況はかならずしも一様ではない。
古代オリエントにおいては神の賛美が願い事のための前提であることが少なくない。これは古代インドのリグ・ベーダの場合にもいえることである。神々に賛歌を捧(ささ)げるのは、神を喜ばせ、神の歓心を買うことにより日常生活上の至福――自分たちを脅かす外敵への勝利、豊作や降雨、家畜の増殖、子孫の繁栄、無病息災、病気からの回復など――を得るためである。一方、神の恵みに対する感謝として神をたたえている場合の多いのが、『旧約聖書』に含まれている賛歌である。神の人間に対する一般的な恩恵を描写するのか、自分たちに対するある特定の恵みを叙述するのかによって、「賛美の歌」と「感謝の歌」とに区別されるが、この両者は本質的に変わらず、ともに賛歌である。ここでは賛歌を口にする者の全存在が賛歌の対象である神に依存していることの表白であり、信仰告白でもある。おそらくこれと対照的な形式は、いわゆる「嘆きの歌」であるが、現実の窮状、見捨てられたことの悲嘆は、救済を求める神への切なる訴えとなり、訴えかけている神の賛美となることもまた多い。この典型的な例として「詩篇(しへん)」第22篇をあげることができよう。
祈願、感謝、嘆きなど、前提となる状況はさまざまではあるが、彼らが神に語りかけるときそれは祈りとなり、祈りの究極の形態として昇華したものが、神をほめたたえる賛歌となった。
[石川耕一郎]
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…ここで歌われたのは,旧約聖書の《詩篇》の歌(プサルモディアpsalmodia)であったと考えられる。その後,初期キリスト教の時代を通じて,キリスト教の中心は主として地中海の東方(オリエント)にあり,新たに作られる賛歌(ヒュムノスhymnos)の類を加えながら,シリア聖歌,アルメニア聖歌,コプト聖歌,ビザンティン聖歌など,それぞれ地方色をもつ典礼聖歌の伝統が形づくられていった。 西方キリスト教会の音楽は,初期の段階ではこれらの東方の伝統に負うものであった。…
※「賛歌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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