エロス(読み)えろす(英語表記)Erōs

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エロス」の意味・わかりやすい解説

エロス(ギリシア神話)
えろす
Erōs

ギリシア神話の愛の神。ローマではクピド、またはアモルとよばれる。古い伝承では、エロスは大地とともにカオス混沌(こんとん))から生まれた原初の力、あるいは夜の女神ニクスが生んだ卵から誕生した神とみなされた。古くからアフロディテの子とされているが、お産の女神エイレイテイア、虹(にじ)の女神イリスを母とする説、あるいはヘルメスアルテミスとの間に生まれた子とするなど、さまざまな説がある。さらに、アフロディテの子としても2通りのエロスがあり、天空の女神アフロディテとヘルメスの間に生まれた子と、もう1人はアンテロス、つまりゼウスとディオネの娘であるアフロディテと軍神アレスとの子である。このように、古代よりエロスをめぐって詩人、宗教家、哲学者などがいろいろな解釈を繰り広げている。あらゆるものを結び付け、愛の力を具現するエロスは、初め翼を備えた気まぐれな美青年として描かれたが、彼の年は時代を経るにつれてしだいに若くなり、ついには弓と矢を持つ子供として表されるようになった。ヘレニズム時代の詩人たちは、エロスがガニメデスとともにクルミの実で遊ぶようすを歌ったが、一方ポンペイの壁画では、エロスは幼児の姿で複数の神々となっている。エロスが戯れに放つ矢は、人間だけでなく神々の胸をも傷つけ、恋の苦しみを与える。そしてほとんどの物語脇役(わきやく)的な存在であるエロスは、プシケとの恋物語では主役を演じている。

[小川正広]


エロス(小惑星)
えろす
Eros

小惑星433番の名。1898年にドイツウィット発見軌道長半径が1.46天文単位で、当時知られていた小惑星のなかでは格段に小さく、地球にたいへん接近することがあるため注目を集めたが、今日ではさらに小さな軌道のものがいくつも知られる。5.27日の周期で明るさが著しく変わることから、細長い形のものがこの周期で自転していると考えられたが、近年の測定では長さ35キロメートル、幅16キロメートル、厚さ7キロメートルほどと求められている。

[村山定男]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エロス」の意味・わかりやすい解説

エロス
Erōs

ギリシア神話の愛の神。ラテン語名をクピド (キューピッドはその英語化) という。ヘシオドスの叙事詩『神統紀』では,天地生成の初めにカオスに次いで生じた最古の存在の一つである。すべての神々のなかで最も美しく,アフロディテが神々の仲間に加わると,すぐこの女神に随伴するようになったといわれているが,のちにはアフロディテがアレスの種によって生んだ息子とみなされるようになった。弓矢を持ち,金の矢で射ることによって恋情を,鉛の矢で射ることで嫌悪の情を燃立たせるという。人間の美女プシュケを愛し,彼女を憎悪してやまないアフロディテの妨害にもかかわらず万難を排して彼女と結婚して,霊魂の人格化された存在にほかならない彼女を神々の仲間入りさせたとされる。

エロス
Eros

1898年8月 13日にコペンハーゲンのウラニア天文台の C.ビットにより発見された小惑星 433号。の位置における平均実視等級 10.3等。長さ約 35km,幅約 16km,厚さ約 7kmの不規則な岩石状で,5時間 16分の周期で自転し,明るさが 1.5等程度変化する。公転周期 642日,軌道離心率 0.22。その公転軌道は火星軌道の内側に入り込み,地球に 2000万 kmまで近づくことがあるので,レーダの発達以前は太陽視差の精密測定にしばしば利用された。水星や金星への接近を利用して,それらの惑星の質量の計算にも役立ってきた。

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