ノバーリス(読み)のばーりす(英語表記)Novalis

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ノバーリス」の意味・わかりやすい解説

ノバーリス
のばーりす
Novalis
(1772―1801)

ドイツ・ロマン派を代表する詩人。本名フリードリヒ・フォン・ハルデンベルクチューリンゲンのオーバーウィーダーシュテット生まれ。敬虔(けいけん)主義的な雰囲気の家庭に育つ。ライプツィヒ大学時代にフリードリヒ・シュレーゲルと知り合い、その後またティークとも親交を結び、初期ロマン派が形成された。

 22歳のとき、13歳の少女ゾフィー・フォン・キューンと出会い、やがて婚約するが、2年後にゾフィーは病死した。この恋人の死の体験が深く彼の魂を揺さぶり、神秘主義的思索へといざなった。死や夜の世界に沈潜することから、ゾフィーの死をキリストの死の秘儀に重ね、『夜の賛歌』(1800)が生まれた。やがて彼はフライベルクの鉱山学校で自然科学を学び、かつまた一方でフィヒテ哲学を研究することにより、独自の自然観を形成した。この自然観を小説という形で展開しようとしたのが『ザイスの弟子たち』(1798)である。これは、自然と人間との融和至高の愛の具現者である救世主によってもたらされるという構想のもとに書かれたが、休筆されて未完のままに終わっている。だが、挿入されている愛らしく美しいメルヒェン『ヒヤシンス薔薇(ばら)』は小説全体のテーマを十分に担いえている。こうして、自然や愛について、あるいは哲学、数学、芸術、音楽、メルヒェン、神話道徳魔術などについて独自のロマン主義的思索を展開し、数多くの断章にそれらを書き留めた。こうした一連の思索を解く鍵言葉(キーワード)、また創作の原理として、「魔術的観念論」という考えを打ち立てた。

 やがてティークによりヤーコプ・ベーメを知るや、そのなかに熱い創造の息吹を感じた彼は、それまでの思索を総合する形で、本格的な長編小説にとりかかろうと決心する。それが小説『青い花』(原題『ハインリッヒ・フォン・オフターディンゲン』、1799)であるが、これは第一部『期待』、第二部『実現』という構成で、主人公には中世の歌人H・v・オフターディンゲンの名を借り、場面もまた中世に置いているが、全体として、「世界を詩化し、メルヒェンとする」という彼のロマン主義的理想を追求したものである。ここにも重要な意味のあるメルヒェンが挿入され、かつ小説全体がメルヒェンになるように企図されていたが、作者の夭折(ようせつ)のため未完に終わった。ノバーリスはその繊細な感性と深い思索のためにロマン派の精華とされ、『青い花』はロマン主義そのものの象徴ともなった。

[今泉文子]

『小牧健夫訳『ザイスの学徒』(1949・角川書店)』『大久保和郎訳『ヒヤシンスと薔薇の花の物語』(1950・みすず書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ノバーリス」の意味・わかりやすい解説

ノバーリス
Novalis

[生]1772.5.2. オーバーウィーダーシュテット
[没]1801.3.25. ワイセンフェルス
ドイツの詩人,小説家。本名 Georg Friedrich Philipp,Freiherr von Hardenberg。前期ロマン派の代表者。貴族の家に生れて厳格な敬虔主義的教育を受け,イェナ,ライプチヒ,ウィッテンベルク大学で法律,哲学,歴史学,自然科学を学んだ。この間シラーに師事,F.シュレーゲルと交友,カントやフィヒテの哲学に親しんだ。のち行政事務見習いを経て製塩所に勤務するかたわらティークらロマン派詩人たちと交流しつつ文学活動を行なったが,肺結核のため早世した。恋人ゾフィー・フォン・キューンの死を契機 (いわゆるゾフィー体験) にして生れた一連の詩『夜の賛歌』 Hymnen an die Nacht (1800) と未完の小説『ハインリヒ・フォン・オフターディンゲン』 Heinrich von Ofterdingen (02) が特に有名。後者のなかに出てくる「青い花」はロマン的憧憬を象徴する言葉として広く知られている。

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