大統領拒否権(読み)だいとうりょうきょひけん(その他表記)Presidential veto

知恵蔵 「大統領拒否権」の解説

大統領拒否権

上下両院を通過した法案に対して大統領がその法案を無効にする権限。普通、法案を承認しない理由を付けて起案した上院、あるいは下院に送り返す。議会休会入りする10日前(日曜日を除く)以内であれば、大統領が署名しないで放置しておくことによって拒否できる。これをポケット・ビートー(pocket veto)という。しかし議会開催中、大統領が両院を通過した法案を受け取った後、10日以内に拒否しない場合は、大統領の署名なしで法律となる。また、たとえ大統領が拒否権を発動しても、上下両院がそれぞれ3分の2以上の多数で再び採択すれば、拒否権にもかかわらずその法案は連邦法として発効する。拒否権を覆すという意味で、これをオーバーライド(override)という。なお、大統領拒否権は法案の全体が対象となっていたが、州知事に認められている項目別拒否権(line‐item veto)を大統領も発動できる法案が1996年3月、議会を通過した。法案の本来の目的と無関係な条項(rider)の排除が可能になる一方、連邦議会の権限を弱めるものと反発する向きもある。98年6月、連邦最高裁は違憲とした。

(細谷正宏 同志社大学大学院アメリカ研究科教授 / 2007年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大統領拒否権」の意味・わかりやすい解説

大統領拒否権
だいとうりょうきょひけん
presidential veto

アメリカ大統領が連邦議会に対して有する権限。連邦議会で可決された法律案は,通常大統領の署名を得てはじめて発効するが,その際に大統領が署名を拒否し発効を妨げえることをいう。この場合,大統領は異議の理由を付して発議した院に送り返すが,両院が3分の2の多数で再度可決すれば大統領の拒否をこえて法律になる (overside veto) 。また,法案の可決・送付後,日曜日を除く 10日以内に大統領が拒否権を行使しなければ,法案は自動的に発効する。ただし,10日以内に議会が休会したときは署名しないかぎり廃案になる (pocket veto) 。慣行として拒否権は法案の一部ではなく全体について行使されるので,大統領は部分的には反対でも全体として署名せざるをえないケースが多く生じ,最近では,条項別の拒否権 (item veto) を認めようとする働きかけがホワイトハウス側から活発化している。

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