日本大百科全書(ニッポニカ) 「奴隷体験記」の意味・わかりやすい解説
奴隷体験記
どれいたいけんき
slave narrative
奴隷の体験を記した物語。とくにアメリカ合衆国の奴隷制廃止運動と関連して優れた作品が続出した。アメリカにおける最初の体験記は1701年であるが、1830年代から50年代にかけて、解放黒人自身の筆になる重要な作品が現れた。その多くは、奴隷制廃止運動の集会における講演が書物の形へ発展したもので、生々しい奴隷生活の描写と、キリスト教と独立革命との理念に基づく奴隷制弾劾(だんがい)が、共通の特徴となっている。文学作品としても史料としても貴重な遺産である。もっとも傑出したものはフレデリック・ダグラスの『私の奴隷生活と私の自由』で、ほかにウィリアム・ウェルズ・ブラウンWilliam Wells Brown(1814ころ―84)の『逃亡奴隷ウィリアム・W・ブラウンの物語』、ヘンリー・ビブHenry Bibb(1815―54)の『アメリカの奴隷ヘンリー・ビブの生活と冒険の物語』、オラウーダ・エキアーノOlaudah Equiano(1745ころ―97)の『オラウーダ・エキアーノの興味深い人生物語』が重要である。
[小池関夫]