過去を認識するための素材となるものを史料という。史料のないところに歴史はないといわれ、われわれは過去を直接に感知することはできない。史料という媒介物を通じて過去に迫りうるのである。歴史学において一般に史料とよばれているものは、人間の行動や思考が残したさまざまな痕跡(こんせき)である。痕跡をとどめない事柄は始めからなかったのと同然になってしまうのである。過去を知るための痕跡が史料であるから、史料の範囲がどこからどこまでと明確に特定されるわけではない。人間が書いたもの、語ったもの、すなわち文献史料は、史料のなかでとくに優越した地位を占めている。古文書、古記録をはじめ、書籍、新聞、書簡などはすべて史料である。歴史学では、文書とは差出人と受取人のあるもの、記録とは日記やメモのように自分のために記したもの、編著とは著述や編纂(へんさん)物、と分けている。しかし、法律学では、文書とは文字や符号で書かれたもの全般をさしているように、文書と記録の間も実際には不明瞭(ふめいりょう)である。人間がつくったもの、人間が触れたもの、あるいは人間が行動すること自体、すべてが史料となりうる。歌謡の歌詞のみならずメロディも歴史家の関心によっては史料となりうる。口碑伝説から遺物、出土品、遺跡、風俗習慣のすべてが史料となりうる。史料について公的なものを一等史料、私的なものを二等史料とか、オリジナルなものに優先的な地位を与え、伝聞的なものを低くみるとか、史料の価値についての評価がさまざまであるが、史料は歴史家によって求められ、発見されて史料となるのであり、何が史料となるかはテーマによって異なる。
[斉藤 孝]
過去の歴史を理解し,再構成するためのあらゆる情報。文書,書物,伝承などの文字情報,遺跡・遺物,さらには口頭伝承などが含まれる。17世紀以降のヨーロッパでは,史料の性格やその真偽を検討する文献学が発達し,それをもとに厳格な史料批判の方法が確立した。しかし近代の歴史学は史料批判に耐えうる確かな事実だけを重視したために,研究の対象を狭く限定する結果をもたらした。これに対し,20世紀半ば以降に盛んとなった社会史研究では,対象の範囲を多様な社会現象や心性にまで広げる試みがなされている。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…歴史家が過去を再構成するに当たっては,史料によってその証拠を明らかにしなくてはならない。一般に歴史的認識のもととなるべき素材を史料というが,歴史研究の基礎であるこの史料について,いかなる素材が史料となりうるかを検討し,その固有の性格を究明し,収集・分類の方法を探究するのが〈史料学〉である。…
…1793年(寛政5),江戸麴町の裏六番丁の宅地を借りて幕府の許可を得て創立,95年4ヵ所の町屋敷からの年々の上納金50両を下付され雑費に充当することになり,また和学御用筋は林大学頭支配が定まった。前から続行中の《続群書類従》の編集が続けられたが,1805年(文化2)表六番丁に移転し,毎年金60両の経費で〈史料〉と《武家名目抄》の編集も業務とした。中山信名,屋代弘賢,関口行之,児山紀成ら常時7,8名の編纂員が従事した。…
※「史料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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