日本大百科全書(ニッポニカ) 「巨大神経繊維」の意味・わかりやすい解説
巨大神経繊維
きょだいしんけいせんい
イカの外套膜(がいとうまく)、ミミズ、ザリガニ、ゴキブリなどの腹髄にある特別に太い神経繊維をいい、巨大軸索ともよぶ。神経の興奮伝導速度は、神経繊維の直径が大きいほど速い。また、無髄神経は有髄神経に比べて伝導速度は遅い。このため、無髄神経しかもたない無脊椎(むせきつい)動物のなかでも、逃避反応などで全身にすばやい動きを必要とするものは、いくつもの神経細胞が集まってシンシチウム(細胞が融合し細胞質が混合して形成された多核体)となった巨大神経繊維をもっている。この繊維の興奮によって全身には決まった型の逃避反応がおこる。ミミズがすばやく穴の中に隠れるのは、その典型的な例である。またイカは、外套膜の筋肉を一斉にすばやく収縮させ、外套腔(がいとうこう)中の水を漏斗(ろうと)から吹き出して泳ぐが、この協調をとるため、外套膜には直径が1ミリメートルに達する巨大神経繊維がある。このイカの巨大神経繊維を材料にして、神経興奮の研究は画期的に進歩した。
[村上 彰]