内科学 第10版 「心室性不整脈」の解説
心室性不整脈(頻脈性不整脈)
心室性不整脈とは心室を起源とする刺激生成異常による不整脈であり,心室期外収縮(premature ventricular contraction:PVC),心室頻拍(ventricular tachycardia:VT)および心室細動(ventricular fibrillation:VF)がある.後2者は心拍出量が著しく減少するために,Adams-Stokes発作(脳血流の著しい減少による失神や激しいめまいなどの脳虚血症状)や突然死をきたす重症不整脈であり,特に基礎心疾患を合併する場合には致死的不整脈として心停止発作(cardiac arrest)の主因であると考えられている.
病態生理
心室期外収縮の機序にはリエントリー(reentry),異常自動能(abnormal automaticity),トリガードアクティビティ(triggered activity;早期後電位あるいは遅延後電位による)があるが,トリガードアクティビティによるものが最も頻度が高い.
心室頻拍にもリエントリー,トリガードアクティビティ,および異常自動能によるものがあるが,最も頻度が高いのはリエントリーである.特に心筋梗塞や心筋症などの基礎心疾患を有する例に生じる.基礎心疾患合併心室頻拍では壊死層近傍の病的残存心筋内のリエントリーがその機序であることが多く(瘢痕関連VT,scar related VT),リエントリー回路内の必須緩徐伝導部位では洞調律時には遅延電位(delayed potential)や持続の長い分裂電位(fractionated potential)などの異常電位を認め,頻拍中には拡張中期電位(mid-diastolic potential)や収縮前電位(pre-systolic potential)を呈する.そのほか,伝導遅延を伴う右脚-左脚あるいは左脚前枝-後枝を介する脚間・脚枝間リエントリーもある.また基礎心疾患を有さず,左室中隔のPurkinjeネットワーク内のリエントリーを機序とする特発性心室頻拍(idiopathic VT)やトリガードアクティビティを機序とする右室流出路起源心室頻拍(RVOT-VT)もある.リエントリー性心室頻拍は心臓ペーシングにより再現性をもって誘発,停止が可能で,トリガードアクティビティによるものも心臓ペーシングによって誘発され得るが,異常自動能ではペーシングによる誘発・停止は不能である.
心室細動の機序としては機能的リエントリーが考えられており,リーディングサークル説(旋回する興奮前面と尾部の間に興奮間隙がほとんど存在しない),異方向性リエントリー説(興奮伝導の複雑な異方向発生による),およびスパイラルリエントリー説(興奮前面が渦巻き様で,中心部に興奮していない部分が存在し無秩序に移動する)などがある.
心室頻拍/心室細動の発生要因として,①リエントリー回路となる不整脈基質(substrate),②引き金となる期外収縮(trigger),および③心筋虚血,心不全,自律神経異常,ストレス,電解質,薬物などの修飾因子の3因子が必須である(図5-6-22).[青沼和隆]
■文献
笠貫 宏:心室性不整脈.内科学 第九版(杉本恒明,矢崎義雄編),pp472-480,朝倉書店,東京,2007.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報