心臓の筋肉に酸素や栄養を送る冠動脈の動脈硬化が進んで血管がふさがり、周辺の心筋細胞が
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出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
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出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
冠状動脈の一部の血流がとだえて,その流域の心臓の壁が壊死に陥り,心臓の機能障害を生じる疾患。生命にかかわる場合のある重い病気である。20世紀初期までは,病理解剖によって初めて診断できる疾患であったが,最近では臨床的に容易に診断できるようになった。
日本では心筋梗塞を含む心疾患による死亡は1950年以来,増加の傾向にあり,58年以来,悪性新生物や脳血管疾患に次いで3位を占めるようになり,さらに85年以降は脳血管疾患を抜いて第2位となっている。このなかで,狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患の増加は著しく,50年に人口10万人に対して約10人であったものが,94年には約50人と5倍以上となり,心臓疾患による死亡全体の約3割になる。この増加は,1980年代までは生活の変化によって冠状動脈の硬化や血栓症が増加したことに帰因するが,近年はおもに高齢者における死亡数の増加による。世界的にみると,先進国での虚血性心疾患による死亡率は高く,欧米では日本の約5倍に達する。
心筋梗塞の発生を年齢や性別などでみていくと,90%は40~80歳代に発生しており,60歳代の発生が最も多い。男性は女性よりも発生率が高く,50歳代では約8倍,60歳代でも3~4倍である。職業でみると,肉体労働者よりも精神労働者に多く,肉体労働者では座業の人に多い。タバコについては,喫煙者は非喫煙者の3倍の発生頻度となっており,食事では飽和脂肪酸を多くとる人に多い。
心筋梗塞は,壊死の広がり,発症時の痛みの有無などによって分類される。心筋梗塞は心臓のあらゆる部分に起こりうるが,左心室壁に起こるものが最も多く重要なので,左心室壁のどの部分が壊死に陥ったかによって,それぞれの部位別に前壁梗塞,前壁中隔梗塞,広範囲前壁梗塞,側壁梗塞,下壁梗塞,後壁梗塞などと呼ぶ。また心房に起こるものを心房梗塞,右心室に起こるものを右心室梗塞と呼ぶ。心室の同じ部分でも,壊死が壁の全層に広がったものを貫壁性梗塞,心室壁の内層と中層のみの壊死で,外層の心筋の機能は残っているものを心内膜下梗塞または非貫壁性梗塞と呼んでいる。発症時に胸痛を感じないものを無痛性梗塞というが,老人に多い。なお,発病が1ヵ月以内の病変の不安定な状態を急性心筋梗塞,それ以後の,壊死が繊維化して落ち着いた状態を陳旧性心筋梗塞という。
心筋梗塞は冠状動脈が閉塞されることによって起こる。冠状動脈は動脈硬化や炎症によって生じた高度の狭窄部が血栓や塞栓によって閉塞される場合が多いが,まれには冠状動脈の攣縮(れんしゆく)による閉塞や冠状動脈内膜下に血腫が生じて閉塞されることもある。するとその下流の部分には酸素や栄養が供給されなくなり,壊死が起こることになる。したがって,冠状動脈硬化を促進する,高血圧や糖尿病などの冠動脈危険因子が基礎病変として最も重要であり,梅毒,川崎病,結節性動脈炎などの各種血管炎も原因となる。また冠状動脈閉塞の前段階として著しい狭窄が認められることが多く,狭心症が前兆となることが少なくない。血栓を生ずる直接の原因としては,播種性血管内凝固などの凝血機能の亢進,脱水,高脂血症などによる血液粘性の亢進などがあり,一方,塞栓の原因には心臓の弁膜疾患などがある。
発病の誘因は明らかでないことが多いが,各種のストレスが誘因として考えられる。精神的緊張,暴飲暴食,緊張を要する競技,温度の急な低下,極端な減食,期限の迫られた仕事,台風の前後,寒冷前線の通過などがきっかけになることが多い。
まったく前兆なしに突然発病することもあるが,半数近い例では,発病の数ヵ月ないし数週間前から前兆としての狭心症の発作が起こる。それまで健康だった人では狭心症の発作が起こり,前から狭心症のあった人では発作の回数が増加し,持続時間が長くなり,あるいはそれまでの労作性狭心症の人が睡眠中や安静時にも発作が起こるようになり,いわゆる不安定狭心症または切迫梗塞と呼ばれる状態が前兆となる。
発病すると前胸部の中央に強く深い鈍痛あるいは圧迫感を感じ,数十分ないし数時間にわたって持続する。生命の危険を感ずるような不安感,恐怖感を伴い,狭心症とちがって亜硝酸薬(ニトログリセリンなど)が無効のことが多い。痛みの部位は胸の中央または少し左寄りで,心臓の前の部分が大部分であるが,左肩,左腕,みぞおち,右胸,背中,頸,あごなどにも感ずることがある。一般に痛みは深いところに広がり,痛みの場所をはっきり示せないことが多い。痛みの性質は狭心症よりも強いものが多く,鉄板を胸に押しつけられたような,焼火ばしを突っ込まれたような,胸や心臓を握りつぶされるような,あるいは息がつまるようなといった言葉で表現される。吐き気や嘔吐を伴うことが多く,顔色が悪くなり,手足が冷たくなり,冷汗が出ることが多く,息苦しさや動悸を感ずることもある。血圧が下がったり心臓の拍動が止まるために意識が混濁することもある。このような自覚症状は数時間から1日で軽快するが,重症の場合は,数時間以内に心停止を起こして死亡したり,心不全が進んで著しい呼吸困難や肺水腫,さらに心臓性ショックに陥る。一方,老人などでは痛みはほとんどなく,食思不振,息ぎれ,元気がなくなるなどの特徴のない症状で発病することもある。
他覚症状としては,胸痛を訴える時期に顔面蒼白,発汗,手足の湿疹,発熱がある。脈拍数は少なく弱いことが大部分であり,数時間たって,頻脈になったり,不規則になったりして変化しやすいのが特徴である。血圧は発症時は低くなるが,その後かえって高くなることもある。発病後の1~2週間は,心筋の壊死が生じて最も不安定な時期であり,状態が急変することが多く,専門医の治療にゆだねる必要がある。1~2週間を無事に切り抜ければ,再発が起きないかぎり,順次活動範囲を広げて1~3ヵ月で社会復帰できるようになる。
最も多いのは不整脈で,約90%の例になんらかの不整脈が起こり,あらゆる種類のものがみられる。心室性期外収縮が最も多く,前壁梗塞では心房細動,心室頻脈などの頻拍性不整脈,下壁梗塞で房室ブロックなどの徐拍性不整脈が多くみられる。また急性期死因の主要なものには心室細動および心拍停止がある。第2に心不全がある。心筋梗塞によって心室の一部の収縮力が低下すると心臓機能は低下し,心臓のポンプ作用は弱まる。心拍出量が著しく減少すると心不全となり,肺鬱血(うつけつ)が起こり,さらに進むと肺水腫の状態になる。発病後数日のうちに起こることが多く,体動や不整脈が契機となる。第3に心臓性ショックがあり,最も重篤な病態である。左心室の筋肉の40%以上が壊死に陥ると起こるとされ,血圧低下,乏尿,チアノーゼ,四肢寒冷などの症候を呈する。近年の進んだ治療法でも50%以上が死亡する。その他の合併病態として心膜炎,心破裂,静脈血栓,肺梗塞,脳塞栓,末梢塞栓,播種性血管内凝固,乳頭筋断裂または不全,心室瘤などがある。また発病後数週して,心膜炎や胸膜炎などを生ずる梗塞後症候群がある。これは壊死に陥った心筋が抗原となって起こる一種のアレルギーと考えられている。
心電図の変化は特徴的で,心筋梗塞の起こった部位に相当するグラフに,発病後からT波増高とST上昇があり,数日間持続する。数時間後には異常Q波が現れ,心筋梗塞の典型的所見が完成する。しかし数日から十数日でSTは徐々に基線に復し,T波が陰性化して冠性Tと呼ばれる形となる。
心筋が壊死に陥ると,血中に心筋の細胞成分である各種の酵素や収縮タンパク質の崩壊産物が遊出する。通常,クレアチンキナーゼ(CPK)とミオグロビンが最も早期に増加し,次いでトロポニン,グルタミン酸-オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT),乳酸脱水素酵素(LDH),ハイドロオキシ酪酸脱水素酵素などが増加し,2日目にピークに達し,1~2週間で復元する。ミオシンは梗塞の大きさに比例して1週以上にわたって持続的に高値を示す。ミオシンは心筋特異性のCPK,LDHなどのイソ酵素と同様に特異性が高い。また1~2週間目に,組織修復に関連した一部の酵素やタンパク質(フィブリノーゲン等)が増加する。発病のストレスに応じて,副腎皮質ホルモンやアドレナリンなども盛んに分泌される。非特異的な炎症反応として,白血球増加,赤沈促進などの所見もみられる。胸部X線写真では,心臓の拡大がみられることも少なくない。心不全に合併すると肺鬱血像が生じ,心室瘤のはり出しがみられる場合もある。
心エコー図では,梗塞部位の収縮運動の低下,心囊液の貯留がみられる。放射性同位体によるシンチグラムでは,心拍出量,駆出率などの血行動態の変化と梗塞部位の広がりがわかる。なお,特殊な検査として,心臓カテーテル法と選択的冠動脈造影がある。心臓カテーテル法による検査では,心拍出量の減少,駆出率の低下,左心室拡張終期圧・肺動脈楔入圧・肺動脈拡張期圧などの上昇,中心静脈圧の上昇がみられ,左心室造影では,梗塞部の収縮性低下や心室瘤形成,心室中隔穿孔(せんこう)の有無が明らかとなる。冠動脈造影では,責任冠状動脈の閉塞,狭窄像などがみられる。右心室梗塞では,肺動脈圧が低く,中心静脈圧が高い。心不全のある例では,常時カテーテルを留置して監視しながら治療を行う。
放射性同位元素によるシンチグラムを用いて心筋の傷害の程度,冠動脈の血流分布,残存心筋と壊死心筋,さらには心機能を分析することができる。
発症直後の応急処置は安静,酸素吸入,鎮痛鎮静剤および抗不整脈剤の注射である。急性心筋梗塞が疑われれば,発病数時間以内の症例には冠状動脈の血栓融解療法,あるいは直接にバルーン付きカテーテルで拡げるPTCAが行われるようになり,効果をあげている。心筋梗塞は重篤な疾患で,急性期には病状が変化しやすいので,発病が疑われたら応急処置の後なるべく専門医による持続監視集中治療の行える特殊病棟に入院させる。この特殊病棟をCCU(coronary care unitの略)と呼ぶが,CCUでは,心電図を持続監視し,心不全やショックの予防治療のために,カテーテルを留置して静脈圧,肺動脈圧,心拍出量などを記録する。心電図による重症不整脈の発生の予測と予防および治療が予後に大きな影響を及ぼす。
基本的治療は,肉体的・精神的安静,鎮痛と狭心発作再発の予防,酸素吸入,食事の制限などで,発病後1週間程度はベッドで安静を保つ。その間,不整脈,心不全,ショック,血栓などの合併症の治療を行う。急性期を切り抜ければ,徐々に負荷を増して数ヵ月かけて社会復帰ができるようにする。回復後は,狭心症の再発,不整脈および心不全の発生が予後を悪化させるので,その監視と治療が必要である。特殊な病態には外科的に心室瘤切除,冠状動脈バイパス手術,僧帽弁置換術などが行われる。軽症例や初期治療の順調に進んだ例には,発症3週目から段階的に運動量を増すリハビリテーションを行う。慢性期になると心不全,不整脈および虚血に対する治療と高血圧・糖尿病などの合併症の治療が中心となる。
執筆者:細田 瑳一
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壊死は次第に心外膜側へ波状に広がり6~24時間後には
同じく冠状動脈の動脈硬化に基づく狭心症は心筋の壊死がなく、心臓本来のはたらきであるポンプ機能は正常に保たれているのに対し、心筋梗塞では心筋が壊死に陥ってポンプ機能が障害され、壊死が広汎に及べば心不全やショックを合併することもあります。
最近の医学の進歩で急性心筋梗塞の死亡率は減少していますが、現在でも5~10%程度とあなどれません。急性心筋梗塞の半数には前駆症状として狭心症がありますが、残りの半数はまったく何の前触れもなしに突然発症するので、予知が難しいことが問題です。
心筋梗塞は発症からの時間の経過で治療法、重症度も異なるので、発症2週間以内を急性、1カ月以上経過したものを陳旧性とするのが一般的です。
陳旧性心筋梗塞の重症度は心機能(心筋壊死の大きさ)と
従来、冠動脈の
最近では、不安定狭心症や急性心筋梗塞は、冠動脈壁の粥腫の崩壊とそれに引き続いて起こる血栓の形成のために冠血流が急激に減少するという共通の病態に基づいて発症するものと考えられるようになり、まとめて
ただし、すべてがこれら粥腫の崩壊に基づくものではなく、狭窄度が徐々に進行したもの、また日本では冠れん縮(冠動脈の血管平滑筋の過剰な収縮)によるものも少なくありません。
粥腫は動脈硬化により形成されます。動脈硬化は動脈が弾力性を失ってもろくなった状態で、年齢とともに徐々に進行しますが、人種差、体質や外的要因によっても進行度に違いがあります。
冠動脈の動脈硬化を進行させる因子を冠危険因子といい、高コレステロール血症、高血圧、喫煙、糖尿病、肥満、痛風、中性脂肪、運動不足、精神的ストレスなどがあげられます。
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急性心筋梗塞は多くの場合、胸部の激痛、
高齢者では特徴的な胸痛でなく、息切れ、吐き気などの消化器症状で発症することも少なくありません。また、糖尿病の患者さんや高齢者では無痛性のこともあり、無痛性心筋梗塞は15%程度に認められます。
狭心症の患者さんで、症状の程度がいつもより強くなったり、回数が頻回になったり、軽い労作で誘発されるようになった場合には、不安定狭心症や心筋梗塞に移行する可能性があるので、ただちに専門医を受診するのが安全でしょう。
急性心筋梗塞は前記のような特徴的な強い持続性の胸痛と、心電図の所見、血清酵素の上昇から診断されます。心電図検査は簡便ですが、急性心筋梗塞の診断に極めて有用です。
発症直後ではT波の増高だけしか認められず、専門医でないと見逃すこともありますが、2~3時間後には特徴的なST上昇が認められます。心電図のST上昇を示す誘導箇所から心筋梗塞の場所、どの冠動脈が閉塞しているかがわかります。さらに時間が経過するとR波が減高し、Q波の出現を認めるようになります。
ただし、心臓の後ろ側の心筋梗塞など一部の症例では、急性期でもST上昇を認めず、ST低下として表現されることもあるため診断が難しいこともあります。
このような場合には心エコー検査で心筋の壁運動を観察して診断の補助とします。また、胸痛の原因が心筋梗塞なのか大動脈解離などの他の病気であるのかの鑑別診断にも心エコー検査は有用です。慢性期の陳旧性心筋梗塞では、梗塞の部位に一致した誘導で異常Q波と陰性T波を認めます。
心筋梗塞の急性期には壊死に陥った心筋から心筋
しかし、いずれの酵素も心筋梗塞の発症から血液中で上昇を始めるまでには時間的にずれがあり、いちばん早く上昇するとされるCK、トロポニンでも血液中で上昇してくるのは発症3時間後ぐらいからです。したがって、発症直後であればたとえ心筋逸脱酵素が上昇していなくても、急性心筋梗塞を否定することはできず、必要があれば時間を追って繰り返し測定しなければなりません。
発症早期にはミオグロビンの測定が有用ですが、心筋特異性が低いのが欠点です。またGOTは肝障害や
急性心筋梗塞の治療は一般的治療と特殊治療に分けられます。急性心筋梗塞は梗塞の範囲が広いほど予後が不良になるので、できるだけすみやかに詰まった冠動脈を再開通させる治療(
再灌流療法には、静脈ないし冠動脈から血栓を溶解させる薬物(組織プラスミノーゲンアクチベータ)を注射する方法(
血栓溶解療法には出血性合併症の問題があり、血栓が溶けても高度の狭窄病変が残ることも多く、日本ではインターベンション治療が一般的に行われています。発症6時間以内であれば、再灌流療法により心筋壊死の範囲を狭くすることが可能とされ、一般的には12時間以内がインターベンション治療の適応とされています。
一般的治療として数日間の安静・絶食、鎮痛薬、安定薬の投与、酸素吸入が必要です。抗血栓薬としてアスピリンは急性期から投与し、継続的に心電図を監視して重症の心室性不整脈が現れるのに対応できるようにします。
心筋梗塞後には、生命予後の改善効果が示されているACE阻害薬ないしアンジオテンシン受容体阻害薬を投与する。さらに
退院前には生活習慣を是正して、必要があればコレステロール低下薬(スタチン製剤)などを服用して、長期予後の改善を図る必要もあるでしょう。
重症な病気なので、前記のような強い胸痛があればすみやかに救急車で専門医の診察を受けることが大切です。また、普段から病気にならないよう、生活習慣の改善に努めることが何より重要です。
西山 信一郎
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
冠状動脈による心筋への酸素(血液)の需要と供給が不均衡となり酸素不足の状態(冠不全)が持続する結果、心筋細胞に不可逆性変化(心筋壊死(えし))が生じて心筋の収縮機能が多少なりとも障害を受けた病態をいう。原因は主として冠状動脈の硬化性狭窄(きょうさく)病変を基盤とし、血栓形成や動脈のれん縮が加わって冠血流がとだえることにあると考えられる。すなわち、冠血流が停止すると、心筋細胞において細胞小器官の膨化が数十分以内に生じ、数時間の経過で心筋壊死が進展するとされている。心臓弁膜症などで心腔(しんくう)内に形成された血栓が冠状動脈閉塞を引き起こすこともある。
好発年齢は狭心症と同様に50~60歳代であり、男性が女性に比べて多い。臨床的に労作および安静時に突然生じる左前胸部の絞扼(こうやく)感(絞め付けられるような感じ)を主症状とし、冷汗、悪心、嘔吐(おうと)などの随伴症状を呈することもある。また頻発する狭心症の発作に対してニトログリセリンの投与が奏効しない場合も、心筋梗塞への移行を考慮しなくてはならない。
[井上通敏]
病歴、心電図所見、白血球数、血清逸脱酵素の定量によって診断されるが、多くの場合、発症数時間後に心電図のST部分の著明な上昇を認めるので、判定は容易である。心筋の壊死によって、血清内へ流出する血清逸脱酵素の一つであるクレアチンフォスフォキナーゼ(CPK)のイソ酵素MB型の定量測定も、心筋梗塞に特異性が高く、診断に有用である。
[井上通敏]
急性心筋梗塞は発症後数時間内に不整脈などで死亡する例が多いので、早期にICUやCCUに収容して集中監視および治療を行うことが肝要である。安静を保ち、酸素吸入を施行する一方、胸痛に対しては鎮痛剤を使用するが、心筋梗塞の胸痛は通常の鎮痛剤では奏効しない場合が多く、麻薬(モルヒネ)の使用を余儀なくされることもある。これらの一般的処置が行われたら、集中監視システムを設置した専門施設での治療が必要である。心筋梗塞の死亡率は20%程度であり、心不全、ショック、心破裂、不整脈に基づくことが多い。治療法の進歩に伴い、不整脈による死亡は減少傾向にあるが、心筋収縮機能の低下に起因する心不全やショックによる死亡率は依然として高率である。心筋の収縮力低下は障害心筋の範囲に依存しているため、治療に際してはこの点に留意し、心筋の保護に努力する。すでに壊死が進展した心筋細胞は再生しないので、非梗塞領域の健常残余心筋の障害進展を防止することも肝要である。なお、外科的療法としては、心不全やショックが強いときに大動脈内バルーンパンピングを行う。すなわち、大腿(だいたい)動脈から大動脈内にバルーン付きカテーテルを挿入し、胸部下行大動脈内に固定して大動脈圧を調整し、冠血流を増加させる方法である。また急性期を過ぎてからは、大動脈と冠動脈にバイパスの血管を設ける手術も行われる。
[井上通敏]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)生活習慣病用語辞典について 情報
…形のうえで現れる変化のうち,可逆性のものを変性とよぶが,壊死は,不可逆性の変化に陥ったものである。壊死をおこす原因には,栄養動脈の閉塞による血行停止(たとえば,冠動脈閉塞によっておこる心筋梗塞),毒素(ヘビ毒,ガス壊疽(えそ)菌,ジフテリア菌などによる細胞融解),ウイルス感染による細胞崩壊,化学物質(青酸塩など),電離放射線(癌の放射線療法などでおこる),高温や低温(火傷,凍傷)などが挙げられる。細胞壊死のメカニズムには不明の点が多いが,膜系のATPの喪失,カルシウムイオンの細胞内流入が密に関係している。…
…冠状動脈の粥状硬化など,種々の原因で冠状動脈の血流が不足して一時的に心筋の酸素不足が生じ,その症状として数分間,胸が圧迫されるような苦しみや痛みを伴う発作をくり返す病気である。この苦しみの発作を狭心発作と呼び,これが数十分以上も続くときは,心筋の一部が壊死に陥り元どおりには回復しない心筋梗塞(こうそく)に移行することがある。1768年イギリスのヘバーデンWilliam Heberden(1710‐1801)によって狭心発作と心臓との関係につき詳細に記述されたが,そのときにはまだ狭心症と心筋梗塞との区別は明確でなく,狭心症のなかに心筋の壊死を伴う心筋梗塞を含めて考えていた。…
…心筋を養う冠状動脈に硬化症やスパズム(痙攣(けいれん))が起こり,心筋の好気性代謝に必要とする酸素が十分供給されない場合は,嫌気性代謝が主となりエネルギー産出は著しく減少し,心筋障害が進行する。これは臨床的には狭心症や心筋梗塞(こうそく)の発症につながる。心筋
[冠状循環coronary circulation]
心臓を養う冠状動脈coronary arteryは大動脈基部から左右2本出て心外膜下に入る。…
…STは一般にPQと同じレベルにあるもので,心室全体が等電位にあることを示す。したがってSTが上昇または下降すると,心室筋の一部に興奮性の異常(心筋梗塞(しんきんこうそく)など)のあることが推定される。T波は心室興奮の回復過程により生じ,その経過は0.16秒である。…
…したがって,正常の状態では心破裂を起こすことはない。心破裂の原因となるのは,大部分が心筋梗塞(こうそく)である。とくに心筋梗塞で血圧が高い場合や老人,特に女性の場合に生じやすく,心筋梗塞の発生後数日の間,あるいは10日前後に,再び強い狭心発作が起こったり,興奮したりすると,心筋に少しずつ亀裂が生じて,ついには全層が破れる。…
…それ以後も脳卒中は悪性新生物(癌)に次いで第2位を占めている。したがって日本人の動脈硬化性疾患についての疫学的研究は,脳卒中に関してのものが主役を演じざるをえなかったということができるし,このことはアメリカやヨーロッパ諸国においては狭心症や心筋梗塞(こうそく)などの虚血性心疾患についての疫学的研究が主役であるのと同じ理由をもつ。日本における近年の虚血性心疾患と脳卒中の死亡率の頻度をみると,虚血性心疾患による死亡は1950年は年間9.9人(人口10万人対。…
※「心筋梗塞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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