改訂新版 世界大百科事典 「心尖拍動」の意味・わかりやすい解説
心尖拍動 (しんせんはくどう)
apex beat
心臓の収縮・拡張に伴う心臓と大血管の拍動は前胸部壁から触知することができるが,このうちとくに心臓の先端部(心尖部)の拍動つまり心尖拍動は,ほとんどが左心室の収縮に伴い生じるもので,若年者では大多数の例で触知可能である。心尖拍動は通常,左側臥位で触知しやすく,左第5肋間における水平線と左鎖骨中線の延長線の合致点付近で直径2~3cmと狭い範囲で触知され,収縮早期のたたくような感じの拍動である。これに対し病的心では,左心室容量が増大した状態(大動脈弁閉鎖不全あるいは僧帽弁閉鎖不全)の場合のように,心尖拍動部位は健常者に比し左下方に偏位し,拍動範囲も拡大する。その他,大動脈狭窄症,高血圧症等心筋肥大例では擡起(たいき)性sustainedの拍動として触れる。心尖拍動図apexcardiographyは,この心尖拍動をオシログラフ上に図示し,いわば心尖拍動の視・触診所見を客観的に表現したものである。心尖拍動図は左心室内圧と似た波形を呈するが内圧変化とは異なり,左室心尖部の収縮期外方運動を前胸壁からの拍動としてとらえたものであり,その意味づけは当然異なる。しかしながら心尖拍動図は,それから非観血的に左室内圧変化が推定され,とくに左室機能を間接的に評価するうえで有用である。
執筆者:椎名 明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報