内科学 第10版 「心臓ホルモンと心不全」の解説
心臓ホルモンと心不全(心臓血管ホルモンと疾患)
心臓ホルモンの臨床的意義が最もよく理解されている疾病は心不全である(図12-13-2).心不全では,心臓の心拍出量が減少するために重要臓器への血流を維持することが必要となり,このために心臓血管刺激ホルモンが活性化する.これらの一連の神経体液性因子の活性化は,いわゆる心不全時における心臓外代償機序である.一方,心臓血管保護系ホルモンも心不全初期には活性化し機能的に拮抗している.この状態が心臓血管ホルモンからみた代償期心不全である.しかし,心不全が悪化すると,心臓保護系であるNP 系が活性化する程度より交感神経系やRAA 系が過剰に活性化するためにバランスが破綻し,いわゆる心不全の悪循環に陥り非代償期心不全へ進行する.
心臓血管ホルモンは心不全の診断・治療に応用されている.BNPは代償期心不全の時期より心室での産生が増加し,心室への負荷(左室でも右室でも)に比例しているので,心不全の存在診断,重症度診断に広く使用されている.また,心不全の予後診断にもすぐれたバイオマーカーである.心不全の治療は,急性期には血行動態の改善が最も優先され,慢性期には心保護作用(過剰な交感神経系あるいはRAA系の活性化の抑制)が優先されるが,リコンビナントのANPやBNPはその血管拡張作用,利尿作用,心臓保護作用を期待して急性心不全や慢性心不全の治療に使用されている(Saito,2010).また,過剰に活性化した心臓血管刺激ホルモンを抑制する治療法として,β遮断薬やRAA系の抑制薬が慢性心不全の第一選択薬になっている.[斎藤能彦]
■文献
Nakao K, Ogawa Y, et al: Molecular biology and biochemistry of the natriuretic peptide system. I: natriuretic peptides. J Hypertens, 10: 907-912, 1992.
Saito Y: Roles of atrial natriuretic peptide and its therapeutic use. J Cardiol, 56: 262-270, 2010 .
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報