改訂新版 世界大百科事典 「恋せるオルランド」の意味・わかりやすい解説
恋せるオルランド (こいせるオルランド)
Orlando innamorato
イタリアの詩人M.M.ボイアルドの叙事詩。8行詩で3部からなるが未完(1476年着手,95年第3巻刊行)。皇帝シャルルマーニュの宮廷に仕える大司教テュルパンの年代記から翻訳したと著者は記しているが,虚構の作品である。カロリング系の叙事詩の英雄物語に,アーサー王伝説から借りた騎士道的宮廷愛の要素がつけ加えられている。全部で69歌からなる長編で,数多くのエピソードを含み複雑な構成をもつ。だが主題は,シャルルマーニュに仕える英雄的武将オルランドが,東方の異教の国カタイオの王女アンジェリカに対して抱く愛の物語である。魔法使いや魔の泉や怪物たちがいたるところに描かれ,奇想天外な冒険が千変万化な筋に従って展開される。そこには中世の騎士道物語に見られる宗教的敬虔や忠節への真剣さは影をひそめ,失われた騎士道的世界への郷愁と,ルネサンス的宮廷貴族の知的興味本位の雄弁が横溢している。後にアリオストが《狂えるオルランド》を書いて,ボイアルドの詩の後を続けた。
執筆者:佐藤 三夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報