内科学 第10版 の解説
抗悪性腫瘍薬による腎障害(悪性腫瘍と腎障害)
悪性腫瘍に対する化学療法によりしばしば腎障害,特に急性腎不全が起こり,特にシスプラチンとメトトレキサートが問題である.
a.シスプラチン
シスプラチンによる急性腎不全は濃度依存性であり50 mg/m2の一回投与であれば急性腎不全の起こることはまれであるが,投与量の増大により急性腎不全の発症頻度も増大する.シスプラチンによる急性腎不全は投与開始後すみやかに血清クレアチニンの増加をみ,3〜10日でピークになり薬剤の中止により2〜4週間で正常化する.発症機序としてシスプラチンによる尿細管細胞のDNA障害と蛋白合成障害ならびに酸化ストレスが指摘されている.発症予防のためシスプラチンの投与前から十分な利尿を行うことが必要で尿量を150 mL/時以上に維持することが重要である.
b.メトトレキサート メトトレキサートは葉酸産生を抑制する抗腫瘍薬で70〜100%は尿中に排泄され薬剤ならびにその代謝産物は酸性の状態で不溶性となり尿中で濃縮される.そのため,高濃度のメトトレキサートが投与された場合尿細管内で沈殿したり,直接,尿細管細胞を障害することにより急性腎不全が引き起こされる.メトトレキサート誘発性の急性腎不全は非乏尿性で尿毒症を呈するような重症型はまれで大抵の例は2週間程度で改善する.予防には補液と尿のアルカリ化を行う.急性腎不全に対しては血液透析によってメトトレキサートの除去を行う.[山辺英彰]
■文献
Cohen EP ed: Cancer and the Kidney. Oxford University Press, 2011.
Glassock RJ: Other glomerular disorders and antiphospholipid syndrome. In: Comprehensive Clinical Nephrology (Floege J, Johnson RJ, et al ed), pp335-343, Elsevier, St.Louis, 2010.
新田孝作:腎障害をきたす全身性疾患―最近の進歩 悪性腫瘍と腎障害.日内会誌,100: 1330-1335, 2011.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報