改訂新版 世界大百科事典 「植民の書」の意味・わかりやすい解説
植民の書 (しょくみんのしょ)
Landnámabók
アイスランドの植民にかかわる記録,逸話などを集大成した書物。5巻から成り,著者・成立年代とも不明だが,主要部はアイスランド史研究の先駆けとなったアリAri bin brode(1067-1148)の手になるといわれている。内容は,870年ころスウェーデン出身の漂流者がこの島を発見してからキリスト教が広まるまでの約120年間にわたる歴史を記述する。その序文には,ギリシア時代から〈世界の涯(はて)〉として知られたティレThile(ギリシア語ではトゥーレThoulē)をアイスランドと断定した一文があり,同地を北方系ヨーロッパ人の幻の故郷とみなす伝説を生む源泉になった。またこの書物によれば,アイスランドの本格的植民は,ハーラル美髪王の国家統一を嫌った西ノルウェーの首長インゴールブル・アルトナルソンが874年にこの島へ移住したことに始まるという。植民が約60年で完了し,全国集会アルシングと憲法が制定され共和国となった経緯についても詳しく,後世の北欧サガに豊かな材料を提供した。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報