日本大百科全書(ニッポニカ) 「牛方山姥」の意味・わかりやすい解説
牛方山姥
うしかたやまうば
昔話。人を食う怪物を退治することを主題とする逃走譚(たん)の一つ。牛方(馬方)が牛(馬)に荷を積んで山を越えると、山姥が出てくる。荷を食い終わると牛(馬)まで食べる。牛方(馬方)は逃げ出し、一軒家に隠れる。そこは山姥の家で、帰ってきた山姥をだまして、風呂釜(がま)の中で焼き殺す。山姥は女の人食い鬼であるが、火打石を打つと、「かちかち鳥が鳴く」などといってだまされるあたり、かちかち山のタヌキなど愚かな、化けることのできる動物と同じである。
牛方、馬方といえば、ただの運送業者ではなく、むしろ行商人であった。この昔話も牛方、馬方が語り広めたものであろう。荷物も近世末期ごろまでの経済生活を反映して、魚類や塩が多いが、関東から九州まで広く大根売りの話も分布している。大根売りといえば冬の仕事で、この昔話の形成にそういう季節感がかかわっていたらしい。グリム兄弟の昔話集の「ヘンゼルとグレーテル」をはじめ、山姥が自分の家で焼き殺される話は、外国にも類例がきわめて多い。
[小島瓔]