やま‐んば【山姥】
[1] 〘名〙
※
謡曲・山姥(1430頃)「これにござ候ふおんことは百ま山姥とて隠れなき遊君にてござ候」
②
能面の一つ。
能楽「山姥」一曲だけに用いる
鬼女の面。やまうば。
[2]
[一] 謡曲。
五番目物。各流。作者未詳。山姥の
山巡りの
曲舞(くせまい)を得意とするひゃくま山姥と呼ばれる
遊女が供の者を連れて
善光寺に行く
途中、
越後国(新潟県)と越中国(富山県)の境で道に迷って困っていると、女が現われて庵に案内し、自分がまことの山姥だといって姿を消す。やがて月の出るころ、山姥が鬼女の姿を現わして、山姥の曲舞を舞い山巡りの
有様を舞って見せて消え去る。やまうば。
[二]
歌舞伎所作事の一系統。
浄瑠璃「
嫗山姥(こもちやまんば)」によったもの。天明五年(
一七八五)
江戸桐座初演の「四天王大江山入
(してんのうおおえやまいり)」(
常磐津。初世瀬川如皐作詞。鳥羽屋里長作曲。
通称「
古山姥(ふるやまんば)」)で形式を整え、「母育雪間鶯
(ははそだちゆきまのうぐいす)」(
富本。初世桜田治助作詞)、「月花茲友鳥
(つきとはなここにともどり)」(
清元。二世桜田治助作)などを経て、嘉永元年(
一八四八)江戸河原崎座初演の「薪荷雪間の
市川(たきぎおうゆきまのいちかわ)」(常磐津。三升屋二三治作詞。五世岸沢式佐作曲。通称「
新山姥」)で集大成された。坂田時行と遊女八重桐との間にもうけた
怪童丸が、山姥となった母に育てられ、
頼光の家来坂田金時となる筋で、山姥の山巡りから怪童丸の荒事の所作が中心になる。
山姥物。
やま‐うば【山姥】
[1] 〘名〙
①
深山に住むという鬼女。山に住み
怪力を有するという女の化物。やまおんな。や
まんば。
※地蔵菩薩霊験記(16C後)一二「あれこそ山婆(ヤマウバ)の光物とて怖しき物なりと申す」
※申楽談儀(1430)曲舞の音曲「由良の湊の曲舞、やまふば、百万、是らはみな名誉の曲舞共也」
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デジタル大辞泉
「山姥」の意味・読み・例文・類語
やまんば【山姥】[謡曲]
謡曲。五番目物。世阿弥作とされる。山姥の曲舞の名人で百万山姥とよばれる遊女が、善光寺詣での途中、山で道に迷っていると、本物の山姥が現れ、曲舞を舞って山巡りのさまを見せる。やまうば。
やま‐うば【山×姥】

1 深山に住んでいるといわれる女の妖怪。山に住む鬼女。やまおんな。やまんば。
2 「やまんば2」に同じ。
謡曲。→やまんば
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山姥【やまうば】
〈やまんば〉ともいう。(1)能の曲目。五番目物。五流現行。作者は世阿弥と推定される。〈ひゃくま山姥〉と呼ばれる遊女が善光寺参りの途中の山中で真の山姥に出会う。その夜,遊女の謡に合わせて山姥は山めぐりの曲舞を舞いながらゆくえをくらます。(2)(1)に基づく人形浄瑠璃など。近松門左衛門の《嫗(こもち)山姥》で山姥が坂田金時を育てる母とされて以来これによる歌舞伎舞踊が一般化。〈山姥物〉と総称される作品群を生んだ。常磐津節の《古山姥》は本名題《四天王大江山入》(初世鳥羽屋里長作曲,1785年初演),《新山姥》は本名題《薪荷雪間市川》(5世岸沢式佐作曲,1848年初演)が有名。ほかに能に基づく地歌(芝居歌)にも同名曲があり,荻江節に移曲される。地歌・常磐津節・清元節は上方舞の舞地にも使用。長唄では11世杵屋六左衛門(後の3世勘五郎)作曲の《四季の山姥》(1862年初演)が代表的。
→関連項目金太郎
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山姥
やまんば
能の曲名。切能物。各流現行。作者未詳,あるいは世阿弥作か。山姥の山めぐりの曲舞で知られる百万山姥という都の遊女 (ツレ〈連面,唐織着流〉) が,伴 (ワキ〈素袍上下,小刀〉,ワキヅレ〈同〉) を連れて善光寺参りの途中,越後の上路の山中で,年たけた里の女 (前ジテ〈深井,曲見などの面,唐織着流〉) に会い,庵に連れていかれる。女は山姥の曲舞を所望して実は自分が真の山姥であるといい,夕月の頃うたうならば,真の姿を現して移り舞を舞うと言い捨てて消える (中入り) 。里人 (間狂言〈長上下,小刀〉) が山姥のいわれを語ったあと,やがて遊女がうたいだすと,恐ろしい山姥 (後ジテ〈山姥の面,姥鬘,唐織壺折,半切,鹿背杖〉) が現れ,舞を舞い,山めぐりの光景を示して,行くえも知れなくなる。宝生流は白頭が常。小書 (こがき) が多い。替間 (かえあい) にも「卵生」 (大蔵) ,「卵生湿化」 (和泉) がある。浄瑠璃,歌舞伎にも取入れられ,近松門左衛門の『嫗 (こもち) 山姥』をはじめ山姥物といわれる一群がある。
山姥
やまうば
山中に住むという女性の妖怪の一種。もとは山男などの山人の一種で,山に入った女が山姥となったと考えられた。山の神,または山の神に仕える女ともいわれ,妖怪化されて語られる。
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やまんば【山姥】
日本の芸能,音楽の曲名。山姥(やまうば)伝説が能をはじめとして邦楽,歌舞伎にとり入れられ,歌舞伎舞踊では題名はさまざまであるが,山姥物という分類で総括される。(1)能。五番目物。世阿弥時代からある能。シテは山姥。山姥の山めぐりの曲舞(くせまい)で有名になった都の遊女(ツレ)が居て,名も百万山姥(ひやくまやまんば)と呼ばれていた。その遊女が男たち(ワキ・ワキヅレ)を連れて善光寺へ参る途中,越後の上路(あげろ)の山にかかると,日中なのに急に暗くなった。
やまうば【山姥】
山の奥にすむという老女の妖怪。やまんばとも読む。若い女と考える所もある。山姥のほか山女(やまおんな),山姫(やまひめ),山女郎(やまじよろう),山母(やまはは),鬼婆(おにばば)などともいう。地方によって多少の違いはあるものの,背が高く,長い髪をもち,肌の色は透き通るほどに白く,眼光鋭く,口は耳まで裂けている,というのがほぼ共通した特徴である。また,人間の子どもを食べることを好み,山中で出会った者は,病気などの災厄を受けるとされる。
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山姥 やまうば
山奥にすむという妖怪。
背がたかくながい髪で,眼光するどく,耳までさけた口をもち,であった者に災厄をもたらす老女。福をさずける柔和な女性としてえがかれる場合もある。昔話,能,歌舞伎などに登場する。やまんば,山女(やまおんな),山姫,山母,山女郎(やまじょろう)などともよばれる。
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山姥
(通称)
やまんば
歌舞伎・浄瑠璃の外題。- 元の外題
- 織殿軒漏月 など
- 初演
- 宝暦12.7(江戸・市村座)
山姥
(別題)
やまんば
歌舞伎・浄瑠璃の外題。- 元の外題
- 有則恋重荷
- 初演
- 文化7.11(江戸・市村座)
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普及版 字通
「山姥」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典内の山姥の言及
【年の市(歳の市)】より
…かつて毎月の定期市のうち,その年最後の市を正月用品販売にあてる場合が多かったので,暮市,節季市,ツメ市などともいわれる。年の市には神秘的な意味が認められていたらしく,青森県三戸地方のツメマチには親に似た人が出るという伝承があり,長野県北安曇郡や上水内郡の暮市には山姥(やまうば)が現れるといわれていた。年の市は,商店の発達した現在でも,年末になると毎年一定の日に,人家の密集した地の社寺の境内や路傍など決まった場所に設けられることが多く,周辺の集落の人々にとってこの日の買物は一種の年中行事化したものとなっている。…
【山姥】より
…日本の芸能,音楽の曲名。山姥(やまうば)伝説が能をはじめとして邦楽,歌舞伎にとり入れられ,歌舞伎舞踊では題名はさまざまであるが,山姥物という分類で総括される。(1)能。…
【坂田金時】より
…この2書を総合すると,母の老嫗と足柄山中で生活していたのを,21歳のときに頼光に見いだされ,坂田公時と名付けられ,頼光に仕えて36歳のときに主馬佑として酒呑童子退治に参加し,一生妻女をもたず,頼光没後,行方をくらまし足柄山で足跡を絶ったという。その出生については《前太平記》に〈妾(われ)かつて此の山中に住む事,幾年といふ事を知らず,一日此の嶺に出て寝たりしに,夢中に赤竜来たりて妾に通ず,其の時雷鳴おびただしくして驚き覚めぬ,果して此の子を孕めり〉とあって,山姥説話と結びつけられている。山姥は山神に仕える女性と考えられるが,怪力を持つ英雄は神童でなければならず,金時が雷神と山姥の子とされたのであろう。…
【能面】より
…ほかに阿形では天神,黒髭(くろひげ),顰(しかみ),獅子口など,吽形では熊坂(くまさか)がある。能面の鬼類では女性に属する蛇や般若,橋姫,山姥(やまんば)などのあることが特筆される。(3)は年齢や霊的な表現の濃淡で区別される。…
【山姥】より
…若い女と考える所もある。山姥のほか山女(やまおんな),山姫(やまひめ),山女郎(やまじよろう),山母(やまはは),鬼婆(おにばば)などともいう。地方によって多少の違いはあるものの,背が高く,長い髪をもち,肌の色は透き通るほどに白く,眼光鋭く,口は耳まで裂けている,というのがほぼ共通した特徴である。…
【清元延寿太夫】より
…生来の美音家であるのに加えて時代の好みに乗り,庶民に歓迎された。初演した語り物に《保名(やすな)》《累(かさね)》《山姥(やまんば)》など。(2)2世(1802‐55∥享和2‐安政2) 初世の子の岡村藤兵衛。…
※「山姥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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