かちかち山(読み)カチカチヤマ

デジタル大辞泉 「かちかち山」の意味・読み・例文・類語

かちかち‐やま【かちかち山】

日本昔話の一。室町末期の成立か。悪いたぬきばばを殺されたじじのために、うさぎ敵討ちをする。

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精選版 日本国語大辞典 「かちかち山」の意味・読み・例文・類語

かちかち‐やま【かちかち山】

  1. 〘 名詞 〙 童話の一つ。狸にばあさんを殺されたじいさんのために兎がかたきうちをする勧善懲悪の復讐譚。かちかち山は、狸が背負って歩いている薪に、兎が後から火打ち石で火をつけた山のこと。室町期に成立したとみられているが、主人公を兎と熊とにした古風な類例もある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「かちかち山」の意味・わかりやすい解説

かちかち山
かちかちやま

昔話。動物どうしの葛藤(かっとう)を主題にする動物昔話の一つ。爺(じじ)が畑を荒らすタヌキを捕まえ、たぬき汁にしようと、縄をかけて家に置く。婆(ばば)が米を搗(つ)き始めると、手伝うから縄を解いてくれという。だまされた婆はタヌキに殺される。タヌキは婆に化け、爺が帰ってくると、タヌキ汁だといって婆汁を食わせる。爺に同情したウサギが、タヌキを薪(たきぎ)取りに誘い、タヌキの背負った薪に火をつけ、やけどを負わせる。ウサギはやけどに効く薬といって、タヌキのやけどに、唐辛子を入れた膏薬(こうやく)をつけて苦しめる。ウサギは木の船、タヌキは土船に乗って船遊びをする。土船は沈み、タヌキは死ぬ。赤本以来、文献にもいろいろみえる有名な昔話で、江戸時代の五大昔話の一つに数えられる。赤小本の『兎(うさぎ)の手柄』(1673~80ころ)が最古の記録といわれる。「かちかち山」の名は、ウサギが火をつけたとき、火打石の音を聞いたタヌキが何の音かと尋ねたのを、かちかち山のかちかち鳥の鳴く声だと答えたのに由来する。明治以後も絵本などの読み物になって広く知られている。昔話には、「兎と熊」のように、赤本の系統とはやや異なった形式の類話もある。ウサギとクマが小屋をつくるために、カヤ刈りに行く。ウサギはクマにカヤを背負わせ、自分も乗る。途中、ウサギがカヤに火をつける。やけどの薬、土船のことがあって、クマは死ぬ。ウサギは人家へ行き、子供だけのところで、クマを煮て食う。親が帰ってきて、ウサギを捕まえる。子供に押さえさせ、刃物をとりに行っているすきに、子供をだまして逃げる。これとほぼ共通する昔話は、ウサギとトラの葛藤譚(たん)として朝鮮やビルマミャンマー)にも数例分布しており、「兎と熊」は「かちかち山」の原型的な昔話であろう。「かちかち山」の前段は、「兎と熊」の後段からの転化と考えられる。もともと、ずる賢い動物を主人公にした連鎖譚の一例で、部分的に一致する昔話は東南アジアにもある。北アメリカのインディアンにも似た話がある。ペテン師がクマの女たちをだまし、留守番中にクマの女の子供たちを料理し、女たちに食わせる話で、策略でクマの女たちを穴に入れて焼き殺す場面には、女が火打石の音がするというと、火打ち鳥が飛んでいる音だと答えるなどの趣向もある。

[小島瓔

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改訂新版 世界大百科事典 「かちかち山」の意味・わかりやすい解説

かちかち山 (かちかちやま)

昔話。動物社会の抗争や葛藤を語る動物昔話。五大お伽噺の一つで,国民童話の名のもとに,明治以降とくに親しまれた。性悪なタヌキが,畑で種をまく爺を困らせる。爺はタヌキを生捕りにして家に帰るが,タヌキは婆を殺す。婆に化けたタヌキは爺に婆汁を食わせて逃げる。ウサギがその仇討を申し出てタヌキを誘い出して制裁を加える。この昔話の題名は,しば刈りに連れ出したタヌキに,ウサギが火打石で火をつける語り口から付けられたとするのが一般的である。この題名は,江戸時代の《雛廼宇計木(ひなのうけぎ)》《童話長篇》などにすでに現れている。《燕石雑志》や赤本・黒本には〈兎の大手柄〉の表題がみえる。これらには,今日に伝わる〈かちかち山〉の形式が,ほとんど整えられている。動物昔話は,もともと単純な筋書のものが多いが,〈かちかち山〉は例外的に多岐な要素を持っている。タヌキと爺をめぐる前半と,後半のウサギとタヌキの葛藤の物語には,明らかに内容の不統一と破綻が認められる。これについては,〈狸の婆汁〉と〈兎と熊〉の2話型が重なったものと分析されている。この昔話には,タヌキが爺の種まきを妨害し,豊作祈願の呪詞を言い換えた悪者として語られる。なお,〈かちかち山〉の前半部が,農耕儀礼に深くかかわって語られるのは注目すべきであろう。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「かちかち山」の意味・わかりやすい解説

かちかち山
かちかちやま

日本に伝わる五大昔話の一つ。動物昔話。爺婆 (じじばば) が畑へ行って,「一粒植えれば千になれ,二粒植えれば二千になれ」と唱えて豆をまいていると,山からたぬきが出てきて「一粒植えれば一粒よ」とからかう。爺は怒ってたぬきが腰をおろした木株に餅を塗っておいたため,たぬきは逃げられないで捕えられる。爺はたぬき汁をつくろうとたぬきを縛って家におき,畑に行く。たぬきは婆を欺いて殺し,たぬき汁といって婆汁を爺に食べさせる。そこへうさぎが来て婆の仇討ちをする。たぬきに薪を背負わせて火をつけ,やけどをさせたのち,舟遊びにたぬきを連れ出し泥舟に乗せて溺死させる。話の発端は農耕儀礼の呪術であり,後半は動物闘争譚となっており,話の継ぎ合せによってつくられたものと思われる。東南アジアではうさぎととら,またはくまとなっており,かちかち山と同様の話はオセアニア,アメリカインディアンの昔話のなかにも見出される。

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百科事典マイペディア 「かちかち山」の意味・わかりやすい解説

かちかち山【かちかちやま】

昔話。悪いタヌキが婆(ばば)を殺して化け,婆汁にして爺(じじ)に食わせる。ウサギが同情して,タヌキをしば刈にさそって火傷させ,さらに泥舟に乗せて水に沈める。敵を土舟に乗せて敵討(かたきうち)をする話は東南アジアの島々に伝わっており,沈められるのはサルかジャコウネコである。

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世界大百科事典(旧版)内のかちかち山の言及

【親敵討腹鞁】より

朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)作,恋川春町画,1777年(安永6)刊。〈かちかち山〉の後日譚で,子狸に親の敵とねらわれた兎が義理に迫られて切腹し,狸はまた猟人を導いて討たせた狐の子狐に,猟人とともに討たれる。当時流行の料亭葛西(かさい)太郎などをとり入れ,梅が枝の手水鉢の芝居(《ひらかな盛衰記》)の趣向なども加えて,草双紙伝統の民話を黄表紙の滑稽味も豊かに当世化した作品。…

※「かちかち山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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