改訂新版 世界大百科事典 「簓説経」の意味・わかりやすい解説
簓説経 (ささらせっきょう)
簓をすりながら語る説経。《筠庭(いんてい)雑考》(1843成立)巻三に簓説経の絵があるが,能の《自然居士(じねんこじ)》の説経僧が簓を使ったことからすると,その歴史は古い。絵はむしろの上に大きな傘を立て,その下で羽織を着た俗形の男が,立姿で簓をすりながら説経を語っており,そのまわりに男女数人が首をうなだれて聞き入っている。江戸期の説経(説経浄瑠璃)が簓にかえて三味線や操り人形と結びつき,かんたんな小屋掛けで演じられていたのに対し,これは大道芸であり,中世末期ころの古い説経の姿をよく示している。ロドリゲスの《日本大文典》(1608)には,日本で最も下賤な者として軽蔑されていた七乞食をあげ,その一つに簓説経を入れている。
執筆者:岩崎 武夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報