羊水過多症(読み)ようすいかたしょう(その他表記)Polyhydramnios

六訂版 家庭医学大全科 「羊水過多症」の解説

羊水過多症
ようすいかたしょう
Polyhydramnios
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 子宮内の羊水が800mlを超えると判断される場合を羊水過多といい、これに母体の自覚症状を伴う場合を羊水過多症といいます。羊水は主として胎児の尿、肺胞液(はいほうえき)から産生され、嚥下(えんげ)により胎児に吸収されます。両者のバランスにより羊水量は安定していますが、バランスの破綻(はたん)から羊水量に異常を来します。

原因は何か

 原因として、羊水産生の過剰か吸収の減少が考えられます。産生過剰の代表的な例は双胎間輸血(そうたいかんゆけつ)症候群(多胎妊娠を参照)であり、受血児は多尿になるため高度の羊水過多となります。腎臓や肺の異常による羊水過多も報告されていますが、その頻度は低いようです。

 原因の多くは吸収の減少であり、嚥下障害と消化管通過障害によります。嚥下障害としては、中枢神経系の異常、筋骨格系の異常、消化管通過障害としては食道閉鎖、十二指腸閉鎖などの上部消化管の閉鎖などがあります。内臓が腹壁外に脱出した異常(髄膜瘤(ずいまくりゅう)臍帯(さいたい)ヘルニア)では、そこから髄液(ずいえき)漿液(しょうえき)漏出を来し、羊水過多となることもあります。母体の糖尿病やウイルス感染、胎盤腫瘍(たいばんしゅよう)も原因となりえます。

検査と診断

 診断は超音波断層法により行います。羊水腔は子宮内のエコーフリースペース(超音波の反射がない部分)として観察され、そのスペースの大きさ(たとえば、径が8㎝以上など)により診断します。羊水過多と診断されたら、原因の検索を行います。母体の糖尿病検査、感染症検査、胎児・胎盤の超音波検査を行い、それぞれの原因に応じた管理を行います。

治療の方法

 母体の呼吸困難、悪心(おしん)嘔吐心悸亢進(しんきこうしん)などの症状がみられる場合には、腹壁から穿刺針(せんししん)を子宮腔内に刺し入れ、羊水を吸引除去します。大量の急速吸引による急激な減圧は、胎盤剥離(たいばんはくり)や子宮収縮を誘発することがあるので注意を要します。羊水除去の効果は一時的であることが多く、繰り返し行うか、胎児が成熟しているようであれば娩出させます。

 羊水過多の時は通常の経腟分娩(けいちつぶんべん)では合併症を起こしやすいので、帝王切開が行われることが多くなります。

上妻 志郎

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「羊水過多症」の意味・わかりやすい解説

羊水過多症
ようすいかたしょう
hydramnion

妊娠中に羊水が異常に多くなった状態双胎や胎児の先天異常 (無脳児,消化管閉塞など) の際に起りやすいが,原因不明のこともある。母体は妊娠中毒症にかかりやすく,早産を起しやすい。急性型 (妊娠 15~20週) では,妊娠継続はほぼ不可能なため,人工妊娠中絶をする。

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世界大百科事典(旧版)内の羊水過多症の言及

【羊水】より

…羊水の産生,吸収の機序については不明な点も多いが,羊膜の上皮細胞や上皮下結合組織を通じて分泌,吸収されると考えられており,また胎児が飲み込むことによって吸収され,呼吸器や皮膚から,さらには尿として分泌されると考えられている。 羊水量が1000mlを超えた場合を羊水過多といい,これによって妊娠や分娩に異常をもたらす状態になったものを羊水過多症という。羊水過多症では,増加した羊水が胎児を圧迫するとともに,子宮を拡大させることから,早産や前・早期破水,胎盤早期剝離(はくり)などの異常を起こしやすくなる。…

※「羊水過多症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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