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妊娠 にんしん

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妊娠・子育て用語辞典の解説

にんしん【妊娠】

受精卵が女性の体内にある子宮に着床、赤ちゃん(胎児)として成長、赤ちゃんや胎盤が体外に出るまでの体の“状態”を妊娠といいます。この期間は「妊婦さん」と呼ばれますね。「産婦さん」は分娩した女性をいいます。

出典|母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(愛育病院院長)、子育て編:多田裕(東邦大学医学部名誉教授)
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デジタル大辞泉の解説

にん‐しん【妊娠】

[名](スル)女性が身ごもること。受精した卵子子宮内で発育させること。哺乳類にみられ、受精卵が子宮に着床し、母体と連絡する胎盤を生じて発生が進み、一定の期間を経て胎児が分娩(ぶんべん)される。懐妊。懐胎。妊孕(にんよう)。

出典|小学館
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百科事典マイペディアの解説

妊娠【にんしん】

女性が体内に受精卵またはそれが発育した胎児を保有する状態。受精に始まり分娩(ぶんべん)(出産)に終わる。受精すると受精卵は細胞分裂を始め,発育しながら約3日後に子宮腔に到達する。
→関連項目産科人工授精想像妊娠多胎妊娠妊娠中絶妊娠徴候不妊

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト
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栄養・生化学辞典の解説

妊娠

 女性が着床した受精卵を体内に保有する状態.

出典|朝倉書店
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食の医学館の解説

にんしん【妊娠】

《妊娠中の体調と対処法》
 妊娠は病気ではありませんが、母親の胎内で命が育まれ、胎児(たいじ)が成長するとともに母親の体型、体調も変化してきます。またその変化も、妊娠初期、中期、後期、産後では異なり、それぞれの変化をキャッチして、快適なマタニティライフを送りたいものです。
 以前は月数で数えられていた妊娠中の流れは、現在では週数で数えられるようになりました。最終月経を妊娠0週とし、受精卵が子宮内膜(しきゅうないまく)に着床(ちゃくしょう)して妊娠が成立した段階が妊娠3週になります。それ以降、12週くらいまでが初期、27週までが中期、そして出産直前までが後期になります。
 出産時、産後も含め、それぞれの時期によって日常生活のすごし方、胎児の成長や母体に影響を与える食事のしかたなど、注意することも異なります。およそ10か月という期間の中で、安心して出産を迎え、出産後も母子ともに健全な生活が送れるように、生活も食事も注意しましょう。

出典|小学館
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世界大百科事典 第2版の解説

にんしん【妊娠 pregnancy】

胚が母体と組織によって物理的な連絡をもち,さらにはそこを通じて物質交換を行い,胎発生を進行させるようになっている状態のことをいう。胎生の魚類などでも,胎盤あるいは類似の組織で胚が母体とつながっている場合には妊娠と呼ばれる哺乳類では,妊娠は,受精卵が発生しはじめ,胚盤胞の状態で子宮壁に着床したときから始まり,出産のときに終わる。胚と母体とを連絡している組織を胎盤といい,母体側に由来するものを母性胎盤,胚由来のものを胎児性胎盤という。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト
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大辞林 第三版の解説

にんしん【妊娠】

( 名 ) スル
女性が受胎して胎児をやどすこと。みごもること。受胎。懐妊。懐胎。 「結婚して五年目に-する」

出典|三省堂
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

妊娠
にんしん
pregnancy

受精卵が卵管内を移動して子宮内膜表面に達し,絨毛によって内膜の一部を溶かして着床し,母体と機能的に結合したのち,胎盤から臍帯を介して栄養や酸素の供給を受けて成長し,出産にいたるまでの生理的過程をいう。

本文は出典元の記述の一部を掲載しています。

出典|ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

妊娠
にんしん
pregnancygestation

妊娠とは、受精卵が母体と組織的連絡を生じ、物質の授受を行いながら発育していく現象およびその状態をいう。つまり着床から出産までの期間をさすわけである。[新井正夫]

妊娠の成立

妊娠は(1)女性生殖細胞である卵の形成と排卵、(2)男性生殖細胞である精子の形成と射精、(3)受精、(4)受精卵の着床、以上の過程を経て成立する。[新井正夫]
排卵
卵巣内で成熟した卵胞が破裂して卵を排出する現象で、排卵した卵は活発な卵管の運動による卵管采(さい)部の吸引作用と卵管采の繊毛運動によって卵管采内に吸い込まれる。卵の寿命は排卵後24時間以内であり、それ以上経過すると受精能力を失う。[新井正夫]
射精
性交によって性的興奮が高まると射精がおこり、精液とともに精子が腟(ちつ)内に射出される。この精液内には数億の精子が含まれており、1分間に約2~3ミリメートルの速度で卵管膨大部までの約20センチメートルの距離を進み、2~3時間から十数時間かかって到着する。精子の受精能力は子宮や卵管内で30時間から3日以内といわれる。[新井正夫]
受精
卵管膨大部で精子と卵が都合よく巡り会えば受精がおこる。多くの場合、精子が先に卵管膨大部に達して待機するが、少なくとも60個以上の精子が卵に集まる。そのうち1個だけが卵に侵入して受精を完了することになる。受精卵はただちに細胞分裂を開始し、子宮内へ移動を始めるが、このとき男女の性別はすでに決定している。[新井正夫]
着床
受精卵は6~7日かかって子宮腔(くう)内に到達し、子宮内膜に埋まって母体と関係をもつようになる。これが着床で、受精から着床までは7~10日間とみられている。着床後は本格的な発育が始まり、胎児となる。[新井正夫]

妊娠期間

真の妊娠持続期間は卵が着床したときから出産(分娩(ぶんべん))までであるが、着床の日はわかりにくく、臨床上は最終月経の第1日から分娩に至るまでの期間としている。すなわち、妊娠する前の月経(最終月経)の第1日から数えて分娩が何日目にあるかを調べた何万という例から、その平均がだいたい第280日目であることがわかり、これを出産予定日としている。この280日という数は40週に相当し、4週間を妊娠の1か月と考えれば、10か月になるわけで、しかも4週間は28日間で大多数の月経期間の日数とも一致するところから、便宜上、妊娠期間として採用されたわけである。したがって、予定日に出産するのは4%くらいで、大多数はその前後2週間ずつ、計4週間のうちに出産する。[新井正夫]
出産予定日算出法
出産予定日を知るには一覧表になった妊娠暦などを利用すればよいが、産科医や助産師は次のような予定日概算法で計算している。すなわち、最終月経の開始日の月数に9を加えた数が出産月で、12より多くなるときは月数から3を引く。出産日は最終月経の開始日の数に7を加えた数で、30より多くなれば多くなった数だけ翌月に回り、したがって出産月が翌月に変わる。月の大小などがあるので正確とはいえないが、だいたいの目安にはなる。[新井正夫]
妊娠週数
WHO(世界保健機関)では満の妊娠週数で妊娠期間を表現することになっており、日本産科婦人科学会では、従来の妊娠暦による28日を1か月とした月数(数え月)の呼び方との混乱を避けるため、妊娠第何か月、第何週と表現することにしている。なお、出産についてもこの妊娠週数で区別し、妊娠23週までの分娩を流産、妊娠24~36週を早産、妊娠37~41週を正期産、妊娠42週以降を過期産とよんでいる。[新井正夫]

妊娠の診断

多くの場合、妊娠の診断を下すことは困難ではない。一般的には自覚的な症状と他覚的な徴候に基づいて行われるが、ごく早期の診断には特別な診断法を用いる。[新井正夫]
妊娠の徴候
妊娠による母体の変化としてみられる疑徴と、胎児の存在による確徴とに分けられる。なお、母体の変化には性器以外に現れる変化と、性器に現れる変化とがあり、前者を不確徴といって区別することもある。不確徴は妊娠の兆しではあるが不確かなもので、妊婦以外にも他の疾患のために現れることがある。すなわち、つわり、乳房の変化、頻尿、皮膚の変化など、妊娠早期にみられる自覚的症状が多い。これに対して性器に現れる変化であるが、妊娠以外の状態でもみられる他覚的徴候が疑徴である。おもなものをあげると、無月経、腹部の膨大、子宮の形状変化、子宮や腟の粘膜が紫色に変色するリピド着色、胎動感、妊娠反応陽性、基礎体温の高温持続などがある。
 胎児の存在が確認できる確徴は普通、妊娠中期以後にみられる。近年は胎児心電図や超音波ドップラー法によってかなり早期に検出可能となったが、従来のトラウベ聴診器による胎児心音の聴取は妊娠20~22週にならないと聴取できない。また、胎児部分の触知やX線写真による胎児骨格の証明(妊娠18~20週以後に可能)なども確徴の一つである。[新井正夫]
早期診断法
熟練した医師によれば、妊娠2~3か月ごろにはいろいろな徴候によって90%以上は診断がつく。しかし、ごく早期にはかなり困難なことがある。また、臨床的には妊娠の異常(子宮外妊娠や胞状奇胎)、胎児の生死などの鑑別も必要となる。これらを含めて近年は、内分泌学(ホルモン)の利用やMEの応用(胎児心電図や超音波診断)によって相当確実に診断されるようになった。
 妊娠反応として重要なホルモンの動態を利用した早期診断法が簡単でよく用いられる。これは、着床と同時に絨毛(じゅうもう)組織から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピンを尿中に証明する方法で、かつてはウサギ、ネズミ、カエルなどの動物を用いて検出するフリードマン反応、アシュハイム‐ツォンデック反応、マイニーニ反応など生物学的妊娠反応を利用していたが、時間や手間の関係で現在はほとんど行われず、もっぱら免疫学的妊娠診断法が行われている。これは、ヒト絨毛性ゴナドトロピンが糖タンパクで抗原性をもっているのを利用し、妊婦尿から精製したホルモンをウサギなどに注射して抗体を含む血清を採取し、これを用いて抗原抗体反応を調べて判定する方法である。現在、いろいろな免疫学的妊娠診断試薬が市販されているが、受精後24日、すなわち予定月経が約10日以上遅れている場合に調べると、妊娠ならば陽性となる。
 また、胎児の心臓の活動電流を検出する胎児心電図や循環器に超音波の連続波を与えておこるドップラー効果を応用して胎児の血流信号をキャッチする方法もあり、妊娠六週ころから可能な早期診断法である。現在では超音波断層法を利用することが多くなり、妊娠五週から子宮内胎嚢(たいのう)を描出、妊娠六週からは胎児像が描出できるほか、多胎妊娠、胎児死亡、胞状奇胎などの異常診断も可能である。[新井正夫]

母体の変化

妊娠の徴候の一つとしてみられる母体の変化は、胎児の急速な発育とともに機能的にも、形態的にも著しくなる。[新井正夫]
性器の変化
妊娠に伴う変化のうちもっとも顕著なものが子宮で、大きさが増し、軟化し、紫色に着色する(リピド着色)が、とくに目だつのが子宮の増大である。わずか40週の間に子宮の長さで約5倍、重さで約20倍となり、腹腔の大部分を占めるようになる。すなわち、子宮は第2か月末でガチョウの卵大、第3か月末で手のこぶし大、第4か月末で新生児頭大、第5か月末で小児頭大となり、第6か月末で子宮底の高さがへそに達する。また、腟も妊娠の進行とともに著しく拡大延長し、腟壁は潤軟となり、リピド着色がみられる。乳白色のおりもの(帯下(たいげ))が増加する。外陰部も潤軟となって色素の沈着が増加する。副性器といわれる乳房は妊娠第2か月ころから増大し、末期には普段の3~4倍の重さとなる。乳輪は著しく拡大して暗褐色に着色する。第5か月を過ぎると、圧出すれば初乳を分泌する。副乳がみられることも珍しくない。[新井正夫]
性器外の変化
妊娠第六週ころから妊娠嘔吐(おうと)(つわり)が始まるが、2~3週間で軽快する。顔面や腹壁などに色素沈着が現れたり、腹部に妊娠線が現れたりする。また、胎児の発育に伴って血液量が増加し、心臓の負担が増大する。腎臓(じんぞう)の負担も増大して妊娠性の糖尿やタンパク尿がみられることがあり、膀胱(ぼうこう)が圧迫されて頻尿になりやすい。体重は妊娠中に8~12キログラムの増加がみられる。体温は排卵後の黄体期高温相が持続するが、末期に近づくにつれて下降傾向がみられる。[新井正夫]

妊娠中の生理と摂生

妊娠は生理的現象であるが妊娠中の摂生を怠ると病的になり、母体および胎児にも大きい影響を与える。妊娠期間は母体や胎児の生理的経過などから初期、中期、後期に分けられるが、以下それぞれについて生理と摂生を中心に述べる。[新井正夫]
妊娠初期
妊娠第1か月から第4か月までをいう。第1か月はほとんど気づかずに過ごしてしまう場合が多く、月経閉止やつわりなどで妊娠に気づくころは第2か月になっている。第3か月になると胎児も人間らしい形態になり、第4か月では性別が外見上わかるようになる。子宮はこのころに児頭大となり、胎盤も完成する。つわりは第2か月後半から始まり、第4か月の後半には軽快する。妊娠初期を通じてもっとも警戒すべきものは流産であり、とくに第2、第3か月は流産しやすいので、夫婦生活も慎重にし、激しい仕事や旅行を避け、睡眠を十分にとり、下腹部や腰部が冷えないように注意する。[新井正夫]
妊娠中期
妊娠第5か月から第7か月までをいう。もっとも安定した期間で、下腹部も目だってくる。腹帯の着用を開始するのもこの時期からである。第5か月になると胎児の顔も整い、手足の運動が始まる。すなわち、母体は胎動を感ずるわけで、初産婦では後半から、経産婦では前半から感ずるようになる。食欲が出て気持ちも落ち着いてくる。旅行や歯の治療などは医師に相談して、この時期に行う。妊婦服(マタニティ・ドレス)などの出産準備を始める。第6か月になると下腹部がだんだん大きくなって目だつようになり、第7か月では乳房も大きくなって初乳が出たりする。四週ごとだった妊婦定期検診も二週ごとに受ける。胎児の皮膚も深紅色になり、顔つきは老人のようにしわだらけで、出産の種類としては早産として扱われる。[新井正夫]
妊娠後期
妊娠第8か月から第10か月までをいう。第8か月になると生まれても助かる場合が多くなる。大腿(だいたい)骨の化骨が始まり、骨盤位(さかご)に注意する。骨盤計測や血液検査などを受け、早産を警戒する。母体は疲れやすく、胃が押される感じがする。下肢がむくみやすくなる。妊娠中毒症の予防を心がけ、水分や塩分の摂取を控え目にし、ときどき足を高くして十分に休養をとる。実家へ帰って分娩する場合は、第8か月の末ごろまでに帰ったほうが安全である。第9か月になると胎児の皮膚はバラ色になり、頭髪も生えて男女とも性器が完成する。母体は胎児が下がった感じで、胸が楽になる。早産および細菌感染の予防上、後半からは夫婦生活や旅行を避ける。万一の場合の連絡方法なども考えておく。第10か月になると胎児の皮膚にしわがなくなり、うぶ毛も少なく、いつ出産しても元気に生活できるようになっており、出産の準備が始まる。妊娠初期と同様に、母体では尿が近くなり分泌物が増えてくる。二週ごとの検診は毎週行われる。出産準備に手落ちのないよう確かめ、早期破水を警戒する。[新井正夫]
妊婦検診
妊婦健康診査ともいい、正常な妊娠経過を図るために妊婦の心身の経過を把握することを目的として行われる。妊娠中毒症や貧血など妊娠の異常を早期に発見し予防するために必要であり、定期検診は前述のように「妊娠第7か月までは4週間に1回、第8~9か月は2週間に1回、第10か月から分娩までは1週間に1回」受けることが望ましい。母子保健法の規定によって妊娠前期と後期各1回は公費で受けられる。
 なお、母子保健法第15条によって、妊娠した者は市町村長に速やかに妊娠の届出をするよう定められており、市区役所または町村役場に届出を済ませると母子健康手帳、妊婦健康診査受診票、母親学級の案内などが交付される。届出は妊婦自身が備え付けの用紙に記入して行うことになっている。[新井正夫]

母体と胎児との関係

10か月という短期間に受精卵が完全な胎児にまで発育する間、母体もこれに伴って代謝や循環などあらゆる面で大きな変動がみられるが、なお生理的状態を保ちうるのは動的平衡関係が維持されているためと考えるべきであろう。[新井正夫]
胎児への影響
妊娠初期の母体の健康は胎児への影響がとくに大きい。子宮内の出血は胎児の栄養不足や酸素不足を招きやすく、脳組織ができ始める初期における酸素不足は大きな影響を与える。また、ウイルスによる流感、麻疹(ましん)、水痘、風疹、耳下腺(せん)炎などは流産をおこしやすく、胎児に障害が生ずる場合もある。初期に高熱や発疹(ほっしん)などの症状が現れたときは、内科医ばかりでなく産科医にも報告する。イヌやネコなどの寄生虫症であるトキソプラズマ症も、人体に感染することがあり、妊娠中に感染すると胎児の脳に侵入して脳水腫(すいしゅ)、脳性麻痺(まひ)、てんかん、知的障害の原因となる。性病のうち、とくに梅毒は胎児に深刻な影響を与えるので、妊婦検診で血液検査を行い、陽性の場合はただちに治療を始める。また、必要以上にX線検査などを行い放射線の照射を受けるのもよくない。流産防止用の黄体ホルモンも、初期に大量使用すると胎児に障害が生ずる場合がある。一般に解熱剤、精神安定剤、ホルモン剤など、薬剤を使用する場合はかならず医師に相談し、独断で軽率な服用をしてはならない。[新井正夫]
妊婦と血液型
頻度は非常に少ないが、Rh式血液型不適合妊娠による新生児溶血性黄疸(おうだん)が問題になる。また、ABO式血液型不適合でも新生児黄疸がみられる。いずれにしても、治療対策の急速な進歩によって多くのものは治癒されるようになった。[新井正夫]

妊娠中の異常

出血、激しい腹痛、発熱、むくみ、めまい、動悸(どうき)、頭痛、視力減退などの症状が現れた場合は、早めに医師の診断を受ける。出血の場合は、妊娠初期では流産、子宮外妊娠、胞状奇胎などのおそれがあり、後期では早産、胎盤早期剥離(はくり)などの疑いがある。いずれも一刻を争う場合が多く、少量の出血でもいちおうの診断を受けておく。激しい腹痛の場合は流・早産の疑いのほか、胆石症、虫垂炎、胃穿孔(せんこう)、卵巣嚢腫(のうしゅ)などのおそれもある。前駆陣痛の場合の痛みは、あまりひどくない。むくみの出る場合は、妊娠中毒症や子癇(しかん)の原因にもなる。高熱の場合は流・早産を誘発しやすく、胎児にも影響がある。激しい頭痛は妊娠中毒症による高血圧が原因の場合もあり、子癇の前兆の場合もある。
 なお、軽い発熱、頭痛、むくみ、腰痛などはよくみられるもので、あまり神経質になりすぎて精神の安定を欠くのもよくない。[新井正夫]
異常妊娠
胎児の数の異常、受精卵の着床の異常、胎児の発育の異常など、あまり心配のいらないものから危険なものまである。
 多胎妊娠は胎児の数の異常で、病的なものではないが、産科的な異常がおこりやすいので十分に注意する必要がある。近年は排卵誘発法の普及によって増えている。子宮外妊娠は受精卵の着床の異常で、卵管妊娠の場合がもっとも多く、開腹手術を行う。なお、前置胎盤も着床異常の一つである。また、胎児の発育の異常としては子宮内発育遅延があり、在胎週数に比し体重の少ないものをいい、胎児発育不全と胎児栄養障害に分けられる。これと関連する疾患に胎盤機能不全症候群がある。出生時には未熟児や過熟児となる。
 なお、真の妊娠とは無関係であるが、想像妊娠もまれにみられる。[新井正夫]

民俗

受胎すること、はらむ、身ごもることで、地方によっていろいろな言い方がある。青森県三戸(さんのへ)郡ではタナブとかタナグ、島根県ではタナル、岡山県真庭郡二川村(現真庭市)ではグスイとかミモチという。長野県諏訪(すわ)地方でヒノベ、愛知県南設楽(みなみしたら)郡でヒガトマルというのは、月経の停止を意味している。長崎県壱岐(いき)島では、受胎することをカタル、妊娠することをハラウムといって、胎児が成長し始めてからのことと区別している。いまでは子供は自分たちでつくるものと考えられているけれども、日本人は長い間、身ごもるということを単なる生理現象とは考えずに、「子供は神からの授かりもの」と信じてきた。新たな命、魂が身内にこもるという神秘的なものとして、神と自然に対して敬虔(けいけん)な畏(おそ)れと謹みの心で対してきた。「七つまでは神の子」ということわざは、端的にこの考え方を示している。妊娠したことがわかって若い嫁が最初に打ち明けるのは、普通、里の母親である。知らせを受けると里の親はタノミニイクといって、食物などをもって婚家の姑(しゅうと)へ挨拶(あいさつ)する風習がある。岐阜、福井、石川県などでは2、3か月目くらいに行うが、このとき持って行く食物は、萩(はぎ)の餅(もち)、うどん、赤飯、餅などであった。福岡県山門(やまと)郡では、妊娠3、4か月ごろ、里方からタノミノボタモチを持って頼みに行き、これを親戚(しんせき)・近所へも配る。タノミノボタモチをもらえば、出産後、産見舞に行くべきものであった。群馬県吾妻(あがつま)郡高山村では、妊娠が決まると、仲人(なこうど)が嫁方へ半衿(はんえり)、婿(むこ)方へ足袋(たび)などを贈り、これをオエイモチの祝いといった。妊娠の兆候が現れると、妊娠祝いをする所がある。普通初子の場合であるが、山梨県北西部ではユウジャク祝い、鹿児島県喜界島(きかいしま)ではハラミブルマイといって、里方から餅、魚などを贈って祝う。長崎県五島の魚目村(現新上五島(しんかみごとう)町)では、妊娠すると親類や懇意な者が妊婦を招いて饗応(きょうおう)する。これをネブルマイといい、妊婦の家では返礼に親戚・知人を招く。妊娠のしるしとしてのつわりを、東北地方ではクセとかクセヤミというが、夫がつわりと同様な状態になることがあり、「病んで助(す)けられるのはクセヤミばかり」ということわざがある。妊娠中は食物や行動についての禁忌があり、禁忌は胎教とも重なっている。また、妊婦は呪力(じゅりょく)をもつものとして、新造船に乗せて豊漁を願うことなどが行われた。[大藤ゆき]

諸民族の習俗

妊娠という生理的現象をどのようにとらえ、どのように対処するかは社会、文化によって異なる。
 妊娠に対する性行為と男女の役割に関する観念は一様ではない。妊娠を性的結合の結果と考えない社会もある。メラネシアのトロブリアンド諸島では、妊娠は死者の霊が女性の胎内に入って再生することだという。男性の精液が生殖力をもつことは認識されず、性行為もたとえば子供の通り道をあけるといったこと以上の意味はもたない。オーストラリア先住民のアランダ人もトーテム聖地の精霊が女性の体に入ると受胎すると考える。これとは逆に考える社会もある。たとえばボリビアのエセエハ人は、子供の体はすべて父親の精液によってつくられ、母親は単に容器でしかないという。そのため妊娠後も胎児が成長し続けるために父親は精液を供給し続けなければならないと考える。妊娠を性行為の結果とみなしても、子供の形成に果たす両親の役割が異なる社会もしばしばある。たとえばビルマのカチン人では、子供の骨格は父親の精液でつくられるが、肉と血は母親からもらうと考え、アフリカのアシャンティ人は、血(肉体)を母親から、魂を父親から受け継ぐと信じている。
 妊娠中はたいてい種々の禁忌が課せられる。とくに広くみられるものは食物の禁忌である。たとえばニューギニアのアラペシュ人では妊婦はフクロネズミを食べてはいけない。フクロネズミは地面に深く潜るのでこれを食べると難産になるという。カエルとウナギは早産になるので食べない。コロンビアのデサナ人も妊婦は多くの禁止に従わなければならないが、その多くは食物に関係している。たとえばナマズは彼らのシンボリズムでは、子供を意味する小魚を食べるので、食べてはいけない。このような食物禁忌は女性だけに課せられることが多いが、夫にも禁止される場合もある。そのほか種々の行動が禁止される。デサナの社会では妊婦は狩猟の武器や罠(わな)に触れてはいけない。土器を焼いているところを妊婦が見ると土器は割れてしまうので見てはいけない。このように妊婦が異常な力をもっていると考えられる社会は多いが、その力を悪と考えるか善とみなすかは社会によって違う。デサナ人は前者であり、後者の例としては、たとえばスマトラのミナンカバウ人では妊婦は稲の豊作をもたらす力をもっているとされる。妊娠中の禁忌は一般にそれを犯すと難産になったり子供に悪い影響を与えるからといわれる。結んだり、閉めたりといった難産を連想させる行動がよく禁止される。妊娠中の性行為も多くの場合禁止される。トロブリアンド諸島では妊娠中に性交すると男根が子供を殺してしまうとして厳しく禁じられる。性交の禁止が出産後数か月続く場合も多い。[板橋作美]

動物の妊娠

哺乳(ほにゅう)類の受精卵が子宮壁に定着し、胎盤を形成して母体との間に酸素や栄養の供給と代謝産物の排出を行って、個体発生を進行させている状態をいう。一般に排卵した卵は輸卵管内で受精することが多い。受精した卵は輸卵管から子宮に向かって下降している間に分裂して、胚盤(はいばん)胞とよばれる中空の胞状体となる。胚盤胞が子宮腔(こう)に入り子宮上皮と接触すると、胚盤胞の細胞の一部が栄養芽細胞となって、子宮上皮細胞を貪食(どんしょく)しつつ子宮基質へと侵入する。栄養芽細胞はしだいに癒合して巨大化し、子宮内に深く侵入して毛細血管を取り込むようになる。この状態を着床という。着床には卵巣の黄体ホルモンや発情ホルモンが必要であるが、胎盤が形成されると胎盤由来のホルモンによって妊娠が維持される。子宮に侵入した栄養芽細胞は着床した胚に栄養を供給し、やがて胎盤の主要部分を形成する。胎盤は、着床に反応して形成された子宮基質由来の脱落膜と、胎児由来の絨毛(じゅうもう)膜とからなる。絨毛上皮細胞からは黄体ホルモンや生殖腺(せん)刺激ホルモンなどが母体に放出される。妊娠が進むにしたがって、胎児は外側が漿膜(しょうまく)に、内側が羊膜に包まれ、胎盤とは臍帯(せいたい)で連絡する。この時期には子宮由来の脱落膜は薄くなり、発達した胎児性胎盤の下に母性胎盤として残るだけとなる。これ以後の妊娠にはとくに子宮の構造上の変化はなく、胎児の発達が進行する。
 着床に必要な脱落膜形成には黄体ホルモンと発情ホルモンが必要である。これらのホルモンは、胚盤胞が着床しなくとも分泌されることがある。発情期のラットの子宮頸管(けいかん)部をガラス棒で繰り返し突くと、排卵後の濾胞(ろほう)が妊娠黄体にまで発達し、黄体ホルモンを分泌するようになる。このとき、子宮を機械的、化学的に刺激すると脱落膜が形成される。このような状態を偽(ぎ)妊娠という。ラットの偽妊娠は内分泌的には妊娠に近い状態であるが、これに対しヒトの場合には、通常の月経周期にも黄体ホルモンの分泌される黄体期があるから、この期間は生理学的には短い偽妊娠期ともいえよう。
 なお、胎生動物の大部分は哺乳動物であるが、胎生のサメ類では受精卵の卵黄が消費されると卵黄嚢と輸卵管下部とが結合して胎盤に類似した構造となり、ここを通してサメの幼生は母体から栄養をとり成長する。このような母体内発育も妊娠ということがある。[高杉 暹]
『柳田国男著『産育習俗語彙』(1935・恩賜財団愛育会) ▽恩賜財団母子愛育会編『日本産育習俗資料集成』(1968・第一法規出版) ▽大藤ゆき著『児やらい』(1968・岩崎美術社)』

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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世界大百科事典内の妊娠の言及

【育児】より

…生まれてきた子どもを,心身ともに社会生活が可能な年齢になるまでの間,養育する過程を育児という。狭義の育児は,出生後学齢までの乳幼児について語られることが多いが,最近では,妊娠中の母性の心身の健康状態が胎児に及ぼす影響が大きいことから,妊娠中の母体の健康維持や,健全な精神生活も育児の一部分と考えられるようになり,さらに,優生学的な見地から,妊娠前の両親の健康も考慮条件に含まれるようになった。また,社会的に一人立ちする年齢が遅くなるにつれて,育児という視点でとらえる必要のある小児の年齢を,中学,高校年齢まで引き上げて考えることも要求されるようになってきた。…

【糖尿病】より

…高血糖の是正は合併症の頻度・進展を著しく低下させる。
[妊娠と糖尿病]
 妊娠も合併症を促進する因子であり,胎児の異常を伴いやすい。一般には妊娠前後から終了まで厳重な血糖コントロールを行えば,健全な妊娠,出産を経験できるようになる。…

【毒】より

…これは両性間の内分泌(ホルモン分泌)機能の差や薬物を代謝する酵素活性の男女間の差に由来すると考えられるが,一般に医薬品その他の化学物質の毒性に対しては,女性は男性よりも強く反応することが多い。 女性でとくに注意すべきことは,妊娠周辺期の医薬品投与や化学物質との接触である。受精が成立しても,その後の着床までの期間に薬物による障害が起こったときは,受精卵の死亡や異常,ならびに母体側の変化とともにその着床が阻害されるおそれがある。…

【妊娠診断】より

…胎児を子宮内に保有する状態を妊娠といい,妊娠の診断は胎児の存在による徴候(確徴)と妊娠によって母体に現れる徴候(疑徴)によってなされるが,診断のための価値としては前者(確徴)のほうが大きいことはいうまでもない。 妊娠の確徴として,胎児部分を外から触れることや胎児心音を聞くことができる,あるいはX線撮影によって胎児の骨格を証明できるなどがあげられるが,これらの確徴の多くは妊娠5ヵ月以後にならないと証明されなかった。…

※「妊娠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト
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