内科学 第10版 「肛門周囲膿瘍と痔瘻」の解説
肛門周囲膿瘍と痔瘻(肛門部疾患)
定義・概念
直腸肛門周囲膿瘍とは歯状線に存在する小さな陥凹,肛門陰窩から便中の細菌が侵入し連続する肛門腺に感染が生じ(crypt glandular infection),直腸,肛門周囲に膿瘍が形成されたものをいう(Parks, 1961).
膿瘍が自壊もしくは切開により排膿され直腸肛門と連絡する瘻管が形成されたものが痔瘻である.
分類
膿瘍は,その存在する直腸肛門周囲のスペースにより分類され,痔瘻は,その瘻管走行と括約筋を貫く位置から分類される(図8-5-40).
頻度としては低位筋間痔瘻が圧倒的に多く,ついで坐骨直腸窩痔瘻,高位筋間痔瘻であり,骨盤直腸窩痔瘻や粘膜下痔瘻は少ない.
臨床症状
膿瘍期の症状は発熱を伴う肛門痛で,膿瘍の進展によって肛門周囲や肛門管内の腫脹,発赤を伴う.
痔瘻では二次口からの排膿がみられ,二次口が塞がり膿がたまると肛門周囲膿瘍症状が出現する.また瘻管が高位,深部に至るものでは,ときに直腸狭窄症状を呈する.
診断
肛門周囲膿瘍は発熱を伴う肛門痛のある患者に肛門周囲の腫脹や発赤を認めたり,指診で内腔へ突出する波動性のある腫脹を触診することで診断する.
痔瘻は触診と指診で痔瘻の型,広がりを診断する.最近はエコー,CT,MRIによる診断の試みもなされている.
治療
肛囲膿瘍の治療は切開による排膿を行い,補助的に抗生物質を使用する.約半数は治癒するが瘻管を形成した場合,つまり痔瘻を形成した場合は手術を行う.手術は全瘻管を切開開放する切開開放術式が基本となる.切開開放することによって肛門変形や括約筋機能が損なわれる危惧のある際は,括約筋温存術式を行う.[岩垂純一]
■文献
Parks AG: Pathogenesis and treatment of fistula-in-ano. Br Med J, 1: 463-469, 1961.
Schouten WR, Briel JW, et al: Ischaemic nature of anal fissure. Br J Surg, 83: 63-65, 1996.
Thomson WHF: The nature of hemorrhoids. Br J Surg, 62: 542-552, 1975.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報