痔瘻(読み)ジロウ(英語表記)Anal fistula (Perirectal abscess)

デジタル大辞泉 「痔瘻」の意味・読み・例文・類語

じ‐ろう〔ヂ‐〕【××瘻】

肛門の周囲に管状の穴があき、うみなどの出る痔疾の一種。蓮痔はすぢあな痔。→瘻孔ろうこう

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精選版 日本国語大辞典 「痔瘻」の意味・読み・例文・類語

じ‐ろうヂ‥【痔瘻】

  1. 〘 名詞 〙 痔疾の一つ。急性肛門周囲膿瘍、または結核性膿瘍が自潰して肛門部や直腸壁に開口し排膿したもの。穴痔(あなじ)。蓮痔(はすじ)
    1. [初出の実例]「痔漏痛不堪、咽乾大便結」(出典医学天正記(1607)乾下)
    2. [その他の文献]〔衛生宝鑑‐痔漏〕

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六訂版 家庭医学大全科 「痔瘻」の解説

痔瘻(肛門周囲膿瘍)
じろう(こうもんしゅういのうよう)
Anal fistula (Perirectal abscess)
(直腸・肛門の病気)

どんな病気か

 直腸、肛門部の感染症です。昔は結核(けっかく)による病気とされていました。直腸、肛門周囲にうみがたまった段階を肛門周囲膿瘍といい、たまったうみが排出され、結果として直腸、肛門と交通のある難治性の管ができてしまうと痔瘻といいます。

原因は何か

 直腸と肛門の境の歯状線(しじょうせん)には、深さが1㎜程度の小さなくぼみ(肛門陰窩(いんか))が肛門全周で6~11個、平均で8個あります。

 体の抵抗力が弱っていて下痢をした場合などに、この小さなくぼみに下痢便が入り込むと、便のなかの大腸菌がこの小さなくぼみに連絡する肛門腺という腺組織に感染を引き起こします。その腺組織の感染が原因となって、うみが直腸・肛門周囲に広がっていき、肛門周囲膿瘍となります(図16)。

 たまったうみが自然に破れるか切開されるかして排膿されると、結果として歯状線の小さなくぼみを入り口とし、肛門腺の感染部をうみの元とする、直腸・肛門と交通のある管が形成されます。

 このように、一度うみの管ができあがると(つまり痔瘻になると)、それは肛門と交通し、なおかつうみの入り口(うみの元)があるために、自然には治りません。

症状の現れ方

 肛門周囲膿瘍になってうみがたまると、39℃からひどい時は40℃以上の発熱となります。うみがたまった部分が腫脹(しゅちょう)し、皮膚表面が発赤する場合もあります。また、夜も寝ていられないほどの激しい痛みが生じます。

 表に破けたり、肛門のなかに破けて出口ができればうみが出て、腫脹、痛み、発熱などの症状はなくなります。うみの出口ができると、そこから排膿して下着が汚れたりします。出口がふさがって治ったかと思っていると、またうみがたまって破け、うみが出るということを繰り返します。

治療の方法

 肛門周囲膿瘍では、一刻も早く切開して排膿します。肛門の周囲の皮膚、もしくは直腸肛門内の粘膜に切開を加え、たまったうみを外に出します。切開し、十分にうみの出口をつくったところで抗生剤、鎮痛薬を投与します。

 その後、外来でしばらく経過を観察し、痔瘻を形成するようなら手術を行います(まれに抗生剤で膿瘍が消退し、治る場合もある)。

 手術の方法は、基本的にはうみの管を切り開いてうみの入り口、うみの元を切除するというものです。しかし、この手術の仕方では瘻管(ろうかん)の走る深さ、部位によって括約筋(かつやくきん)の切開が大きな犠牲となって、痔瘻が治ったあとで肛門がいびつになったり、筋肉の締まりが悪くなってしまうことがあります。

 そのため痔瘻のタイプによっては、括約筋をなるべく残しながら痔瘻のうみの入り口、うみの元を除去する括約筋温存手術を行います。

病気に気づいたらどうする

 肛門周囲膿瘍では一刻も早く医師を受診し、切開排膿を受けることです。我慢していたり、市販の鎮痛薬などでごまかしていてはいけません。うみを広げ、病気を進展させ複雑にしてしまいます。

 医師を受診するまでの応急処置としては肛門部を冷やすことです。入浴したりして温めてはいけません。温めるのは一時的に痛みを緩和させますが、あとでかえって化膿を進める結果になります。

 痔瘻は手術でなければ治らないので、基本的には手術になります。すぐに受診できなかったり手術のための入院ができない時は、下痢をしないように注意します。下痢は痔瘻の原因であり、症状を悪化させるので、アルコール暴飲暴食を避けます。

 肛門部を温湯で洗い清潔にしておくことも、痔瘻を治さないまでも痔瘻により生じる症状の緩解に役立ちます。

岩垂 純一


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改訂新版 世界大百科事典 「痔瘻」の意味・わかりやすい解説

痔瘻 (じろう)
anal fistula

いわゆる痔の一種。直腸と肛門の接合部には歯状線とよばれる境界線があり,この部分に全周にわたって十数個の肛門陰窩(いんか)というくぼみがある。このくぼみに感染が起こると肛門陰窩炎から肛門周囲膿瘍となる。この膿瘍が自然につぶれ,あるいは手術的に切開,排膿されたあとに形成されるのが痔瘻であり,肛門の内外をつなぐ一種のトンネルである。瘻孔は肛門陰窩を一次開口部として,皮下,粘膜下あるいは筋肉間を通過して皮膚に開口する(二次開口部)。その形態は単純なものからかなり複雑な走行をとるものまで(複雑痔瘻)さまざまであり,これが治療に難渋する原因である。

 二次開口部からの持続的あるいは間欠的な排膿が主症状で,この開口部から肛門に向かって硬い索状物を触れる。一般に瘻孔は化膿によって生ずるものであるが,まれには肉芽腫性腸炎や結核によって生ずるものもある。手術が唯一の治療法であり,一次開口部を含めて瘻孔切除術が行われる。まれに癌が発生することがある。

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百科事典マイペディア 「痔瘻」の意味・わかりやすい解説

痔瘻【じろう】

肛門周囲膿瘍(のうよう)が自潰(じかい)した結果生ずる瘻孔で,一度形成されると難治である。細菌感染によるものが過半を占める。まれに,結核性のものや,クローン病,潰瘍(かいよう)性大腸炎直腸癌(がん)を合併する場合も。瘻管の周囲は堅い索状物として触れ,瘻孔より絶えず少量の膿汁分泌がある。手術的に瘻管を切除するか,瘻管を切開して治癒(ちゆ)させる。
→関連項目瘻孔

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「痔瘻」の意味・わかりやすい解説

痔瘻
じろう

痔は肛門(こうもん)病変の総称であり、瘻は膿瘍腔(のうようくう)から体表に通ずる病的な洞または導管を意味する。痔瘻の多くは肛門腺(せん)の感染に由来し、肛門内・外括約筋の間にできた膿瘍が比較的抵抗の少ない組織間隙(かんげき)を伝って体表へと導かれ、トンネル化した状態になっている。俗にあな痔とよばれる。肛門周囲炎や肛門周囲膿瘍を放置すれば痔瘻に進行することが多い。痔瘻は主病巣と瘻管の走り方により、(1)皮下または粘膜下痔瘻、(2)肛門内・外括約筋間痔瘻、(3)肛門挙筋下痔瘻、(4)肛門挙筋上痔瘻、(5)馬蹄(ばてい)型痔瘻、(6)複雑痔瘻などに分類される。瘻管開口部からの排膿が主症状で、自然治癒は乳児の場合を除いて少なく、根治手術を行うのが原則である。

[竹馬 浩]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「痔瘻」の意味・わかりやすい解説

痔瘻
じろう
anal fistula

急性あるいは慢性肛門周囲炎が自壊して,肛門部,肛門周囲皮膚あるいは直腸粘膜に瘻孔をつくり,膿汁などを出す疾患をいう。安静にしにくく,糞便で汚れる部位であることなどのためなおりにくい。外科的処置を要する。結核性のものは現在ではほとんどない。

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普及版 字通 「痔瘻」の読み・字形・画数・意味

【痔瘻】じろう

あなじ。

字通「痔」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の痔瘻の言及

【痔】より

…西洋では,フランスの聖フィアクルSaint Fiacreが諸病とくに痔の守護聖人として有名で,ルイ14世も治癒祈願をしたといわれる。 痔には俗にいういぼ痔(痔核)hemorrhoids,piles,きれ痔(痔裂,裂肛)anal fissure,あな痔(痔瘻(じろう))anal fistulaなどが含まれるが,医学上これらはまったく別個の疾患である。また狭義には痔は痔核の同意語として用いられることが多いので,ここでは痔核について記述し,他の二つはそれぞれの項目にゆずる。…

【痔】より

…西洋では,フランスの聖フィアクルSaint Fiacreが諸病とくに痔の守護聖人として有名で,ルイ14世も治癒祈願をしたといわれる。 痔には俗にいういぼ痔(痔核)hemorrhoids,piles,きれ痔(痔裂,裂肛)anal fissure,あな痔(痔瘻(じろう))anal fistulaなどが含まれるが,医学上これらはまったく別個の疾患である。また狭義には痔は痔核の同意語として用いられることが多いので,ここでは痔核について記述し,他の二つはそれぞれの項目にゆずる。…

※「痔瘻」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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