改訂新版 世界大百科事典 「肛門周囲膿瘍」の意味・わかりやすい解説
肛門周囲膿瘍 (こうもんしゅういのうよう)
periproctal abscess
直腸下部から肛門縁にかけての部分を肛門管というが,この肛門管の周囲に膿瘍ができた状態をいう。女性より男性に多い。肛門管の内面で,直腸粘膜と肛門粘膜のほぼ境界部分に全周にわたって肛門陰窩(いんか)と呼ぶ小さなくぼみが十数個あるが,この肛門陰窩付近からの感染がおもな原因となる。まれには,肛門周辺の皮膚の毛囊,皮脂腺,汗腺の感染や裂肛の合併症として起こり,そのほか外傷や異物によって起こることもある。通常,大腸菌,ブドウ球菌,連鎖球菌,嫌気性菌などの混合感染である。膿瘍のできた位置によって,骨盤直腸窩,坐骨直腸下,粘膜下,表在性皮下膿瘍などと分類されている。症状は発熱と強い疼痛で,痛みは座位や歩行に伴って強くなるが,必ずしも排便とは関係はない。表在性膿瘍では疼痛はきわめて強く,視診で発赤した腫張が観察できるが,深部膿瘍では,直腸指診で圧痛の強い腫張を触れることによって診断される。治療は,速やかに切開して排膿を行うことである。
→肛門
執筆者:立川 勲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報