六訂版 家庭医学大全科 「脂肪肉腫」の解説
脂肪肉腫
しぼうにくしゅ
Liposarcoma
(運動器系の病気(外傷を含む))
どんな病気か
脂肪を含んだ細胞が悪性化したと考えられている悪性腫瘍です。体のあらゆる部分に発生しますが、多いのはふとももと骨盤の内部(
現在では、顕微鏡の検査所見によって大きく4つに分けるのが標準的な分類法で、悪性度の低い(治療成績のよい)順に
●高分化型脂肪肉腫
肉腫という名前がついていますが、生命的な予後は比較的よいため、悪性腫瘍と良性腫瘍の中間的な存在と分類されることもあります。顕微鏡の検査所見でも、良性の脂肪性腫瘍である脂肪腫に大変よく似ています。
多くは四肢の深部や後腹膜腔に発生します。四肢にできた例では、この病気が原因で死亡することはほとんどないといわれています(2%以下)。後腹膜にできた場合でも死亡率は20%以下です。
●粘液型脂肪肉腫
顕微鏡で観察した場合、粘液を含んだ異常な細胞と脂肪の性質をもつ細胞がみられます。以前の学説では、顕微鏡で見たときに円形の細胞がたくさん見える脂肪肉腫を、独立して円形細胞型脂肪肉腫と分類していました。現在では、この2つは同じ遺伝子異常が原因となって発生することから、まとめて粘液型脂肪肉腫と分類します。
この肉腫は、脂肪肉腫の3分の1程度を占めています。治療成績は比較的良好ですが、顕微鏡で評価した時に円形の細胞がたくさんみられる場合には治療成績が悪くなります。
●多形型脂肪肉腫
顕微鏡検査において、脂肪の性質をもつ細胞を含むものの、もっと悪性度の強い肉腫細胞が大部分を占めるように見える脂肪肉腫で、脂肪肉腫全体の5%を占めるに過ぎません。30~50%の症例で肺などに転移し、こうした症例は予後不良です。
●脱分化脂肪肉腫
高分化脂肪肉腫のなかに、より悪性度が高いほかの形態をとる肉腫が発生する状態で、やはり治療成績はあまりよくありません。高分化脂肪肉腫が発生した場合、この状態に変化する確率は10%程度といわれています。
原因は何か
粘液型脂肪肉腫では、特定の2つの染色体の一部が切れてお互いに入れ替わってしまったために、キメラ遺伝子と呼ばれる異常な遺伝子が発生することがわかっています。
粘液型脂肪肉腫以外の脂肪肉腫に関しては、特異的な遺伝子配列異常が報告されているわけではありませんが、染色体の形態が異常を起こし、細胞の遺伝子情報が変化することが病気の原因となっていると考えられています。
症状の現れ方
手足や体の表面に発生した場合、多くは急に大きくなる
病気が進行すると、最初に病気が発生した部位から、血液やリンパ液の流れにのって悪性の細胞が移動し、体のほかの臓器に病巣を作ります。この現象を転移と呼びます。一般的に、肉腫は血液の流れにのって肺に転移することが最も多く、脂肪肉腫も例外ではありません。しかし粘液型脂肪肉腫では、肺以外の肝臓などへの転移が比較的多いことがわかっており注意が必要です。
検査と診断
X線検査では瘤が薄く透けて写ることがあります。MRI(図58(b))などで詳しく画像検査を行うと、腫瘍の存在が確認されます。脂肪の成分が多い場合は皮下脂肪と類似した信号が検出されるため、この段階でこの病気を疑うことができます。
多くの軟部腫瘍にいえることですが、外来での診察や画像検査だけで診断名をつけることはできません。最終的には、顕微鏡で実際に腫瘍組織を検査することで病名を確定します。
脂肪成分の多い高分化型脂肪肉腫は、良性の脂肪腫との区別が必要です。より悪性度の高い脂肪肉腫では、粘液線維肉腫、悪性線維性組織球腫などのほかの肉腫と区別する必要があります。
治療の方法
放射線治療や抗がん薬単独での治療効果は認められませんので、手術による摘出が必要です。手術の方法や、手術に抗がん薬を併用するかどうかなどは主に顕微鏡の所見や転移の有無によって総合的に判断します。
高分化型脂肪肉腫や悪性度の低い粘液型脂肪肉腫は多くの場合、抗がん薬を併用せず、手術だけで治療します。悪性腫瘍は、腫瘍のまわりの一見正常な組織にも腫瘍細胞が潜んでいることがあります。こうした細胞を取り残すと、再発の原因になります。
再発する確率をより少なくするために、肉腫を手術する時には、腫瘍のまわりの正常な組織を腫瘍に一部つけて切除するのが原則であり、このような手術法を広範切除術と呼びます。脂肪肉腫もこうした方法で手術を行うのが原則ですが、最近は悪性度の低い高分化型脂肪肉腫には、より患者さんの体への負担の少ない縮小手術を行うことも増えています。
円形細胞の含有率の多い粘液型脂肪肉腫、多形型脂肪肉腫、脱分化脂肪肉腫など細胞が増殖する勢いがあり、悪性度が高いと考えられている脂肪肉腫に対しては、広範切除術による外科的摘出に加えて、抗がん薬の併用が行われることが少なくありません。これは、全身の精密検査によって放射線診断学的に転移がないと考えられる場合でも、小さな悪性の細胞の集団が体のどこかに潜んでいる可能性が予想されるからです。
病気に気づいたらどうする
この病気の疑いがある場合は、骨軟部腫瘍を専門に治療する施設(がんセンターや大学病院)に紹介を受けて、専門的な治療を受ける必要があります。
関連項目
森井 健司
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報