改訂新版 世界大百科事典 「脊髄ショック」の意味・わかりやすい解説
脊髄ショック (せきずいショック)
spinal shock
脊髄が急性の横断性病変に侵されたときに生ずる,病変部以下の脊髄機能の全般的な低下をいう。脊髄ニューロンの機能は,正常では上位中枢からの持続的な促通効果によって維持されているため,これらの上位中枢からの効果が急激に失われると,脊髄ニューロンの活動性が一時的に低下し,すべての反射が消失してしまい,弛緩性麻痺を生ずることとなる。また血管支配交感神経系の活動も低下するため,血圧の下降もみられるようになる。このような脊髄ショックの状態は数週ないし数ヵ月続くが,その後しだいに病変部以下の脊髄反射機能が回復してくる。反射ではまず表在反射,とくにバビンスキー反射が出現し,ついで腱反射が出現してくるのが普通である。これに伴って下肢の痙縮が生じてくることもあるが,弛緩性麻痺のまま経過することも少なくない。ゆるやかに進行する横断性病変では,このような脊髄ショックの症状がみられないのが普通となっている。
執筆者:岩田 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報