反射(読み)はんしゃ(英語表記)reflex

翻訳|reflex

精選版 日本国語大辞典 「反射」の意味・読み・例文・類語

はん‐しゃ【反射】

〘名〙
① ある媒質の中を進む波が、他の媒質との境界面にぶつかり、その一部がもとの媒質中の異なった方向に進む現象。光・電波・熱・音などが物の表面に当たって、反対の方向に進むこと。はねかえること。
輿地誌略(1826)四「月輝雪上に反射し、明亮なる白昼の如し」
※文明論之概略(1875)〈福沢諭吉〉緒言「今生今身に得たる西洋文明に照らして、其形影の互に反射するを見ば」
③ 医学で、意識や意志とは無関係に一定の刺激に対して、一定の反応を示すことをいう。「反射神経」「条件反射」 〔医語類聚(1872)〕

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デジタル大辞泉 「反射」の意味・読み・例文・類語

はん‐しゃ【反射】

[名](スル)
媒質中を進む光・音などの波動が、媒質の境界面に当たって向きを変え、もとの媒質に戻って進むこと。「声が山に反射してこだまする」
外からの刺激によって生じた生体内の興奮が、大脳まで伝わらず脊髄などで折り返し、意識とかかわりなくただちに特定の応答が起こること。
[類語]照り返す照り返し乱反射反映反照返照

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改訂新版 世界大百科事典 「反射」の意味・わかりやすい解説

反射 (はんしゃ)
reflex

生理学用語,刺激に対する動物の最も単純な反応形式。意識とは無関係に機械的,規則的に生じる反応で,ふつう体の一部の筋肉運動として表れる。反射という概念には,生体を一種の自動反応機械とみなすという考え方が前提にあるが,このような見方はデカルトの《人間論》(1662)に始まる。〈反射reflexus〉ということばそのものが初めて使われたのは,T.ウィリスの《脳解剖学》(1664)においてであり,ウィリスは大脳皮質に反射の場を想定した。その後ホールMarshall Hall(1790-1857)の1833年の有名な実験によって反射の生理学的基盤が明らかにされた。ホールは,前肢と後肢の間で脊髄を切断したカエルの後肢を刺激すると,屈曲(ひっかき)反射が起こることを示し,これが大脳の介在しない過程であることを明らかにした。今日知られているような〈反射弓〉を介して行われる反射の生理学の全容が解明されるにあたっては,シェリントンCharles Scott Sherrington(1857-1952)およびその学派の功績に負うところが大きい。

 反射には経験や学習によって後天的に形成される条件反射と生得的な無条件反射がある。ふつう反射という場合には,このうちの無条件反射のみをさすことが多い。

まばたきや屈曲反射のような,ごく単純な動作については反射によって説明できることもあるが,複雑な行動を反射の連鎖のみによって説明することは一般に困難である。例えば,ハエの摂食行動に見られるふん(吻)伸展反射は,ハエが食物の上に着地したとき,脚の先端部にある感覚毛の刺激受容によってひき起こされる明りょうな反射である。しかし,この場合の摂食行動全体を反射の連鎖と考えることはできない。食物に飛来する行動一つをとってみても,きわめて複雑な運動協調を必要とし,中枢神経系の統合を受けている。走性のようなごく単純な行動でさえ,ダンゴムシの負の光走性におけるように反射によって説明できないものがある。

 動物行動学における生得的行動も刺激(リリーサー)によって解発される点では,反射と共通するが,反射が受動的な生理的過程であるのに対し,生得的行動では一つの目的を達成するために,各行動成分が順序よくまとまりをもって統合され,しかもその動機づけが生体の内部でつくられる能動的な過程であるという点で大きく異なる。言い換えれば,動作の順序や方向を決めているのは外部の刺激ではなく,内部のプログラムなのである。
執筆者:

反射を生理学的に定義すれば,動物が刺激を受けてこれに反応する際,中枢神経系の上位中枢の働きとは無関係に,下位中枢の働きだけにより,比較的単純で固定した刺激と反応の対応関係をもって起こるものといえる。例えば,脊髄をそれより上部の脳構造から切り離してしまったカエルでも,足先をピンセットでつまむと後肢全体を胴体に向けて折りたたむ運動が起こる。これは屈曲反射flexion reflexと呼ばれるもので,強い刺激を受けた肢を刺激源から遠ざけ,危害を免れようとする合目的的な意義をもっている。われわれが釘を踏んだ足をとっさに持ち上げるのはやはり屈曲反射で,痛いと思ってから意識的に持ち上げるのではなく,脊髄の働きにより無意識のうちに持ち上げられるのである。熱いものに触れた指をとっさに引っ込めるのも同様に屈曲反射である。それらの反射に際しては,一定の神経経路を通して刺激が反射中枢に送られ,反射中枢で形成された出力信号がさらに筋肉や腺に送られて反応を起こす。反射において信号が通る全経路を反射弓という。

 身体にはきわめて多数の反射が備わっている。反応が運動となって現れる体性反射のほか,腺の分泌,血液循環などの自律機能上の反応として現れる自律反射がある。

反射中枢が脊髄にあるものを脊髄反射spinal reflexと総称し,これが数個の脊髄節(各脊椎骨と対応する短い分節)に限局している脊髄節反射と,多くの脊髄節にわたる脊髄節間反射とに分ける。脊髄節反射には上記の屈曲反射のほか,伸張反射stretch reflex(ある筋肉を引き伸ばすとその筋肉に収縮が起こる),腱反射tendon reflex(腱をたたいて筋肉を短時間引き伸ばすと起こる一種の伸張反射),交叉伸展反射crossed extension reflex(屈曲反射の起こる肢と反対側の肢が伸びる)などがある。脊髄節間反射として典型的なのはひっかき反射scratch reflexで,ネコやイヌの肩口などに刺激が加わると,後肢をあげて律動的にひっかく運動が起こる。これが純粋な反射であることは,頸髄上部を切断した動物でも起こることによって示される。また,例えば,後肢の一つに強い刺激を与えると,その肢に屈曲反射,対側の後肢に交叉伸展反射が起こるほか,同側の前肢に伸展,対側の前肢に屈曲が起こる。したがって,伸展した前後肢をつなぐ対角線を軸として動物の体が前に傾斜し,刺激を受けた後肢をさらに刺激源から遠ざける。このように,一つの肢から他の肢へと連動して反応を起こす反射性の働きは,肢間協調と呼ばれていて,脊髄節間反射の一つである。

 脊髄より上位に中枢をもつ反射も多数存在する。延髄には,目の角膜を機械的に刺激すると目を閉じる瞬目反射,鼻梁(びりよう)をたたくとやはり目を閉じる鼻梁叩打(こうだ)反射,せき,くしゃみ,嚥下(えんげ)運動などを起こす反射中枢がある。延髄から中脳にかけて反射中枢のあるものとしては,頭が動いたときこれと反対方向に目を動かす前庭動眼反射や,視野の動きにつれて目を動かす視機性眼球運動がある。延髄から脊髄にかけて中枢のある反射としてよく知られているものに,緊張性迷路反射と緊張性頸反射がある。前者は頭の位置の変化に応じて,頸筋に作用して頭の位置を自動的に一定に保ったり,四肢や体幹に働いて身体の姿勢の平衡を保つように働く。後者は頸のねじれ,前後,左右への屈曲に応じて四肢の筋肉に作用し,姿勢を変える働きをもっている。例えば,首を右に向けると右前肢が伸び,左前肢が屈曲する。首を後ろへそらせると,これに伴って両手が伸びる。逆立ちをしたとき首をそらせると有効なのはこのためである。反射のほとんどは脊髄,脳幹に中枢があるが,大脳皮質を経由すると考えられる反射が二つある。一つは踏み直り反応と呼ばれるもので,目隠しした動物の手の甲に物がさわると,手首を曲げてその物の上に手がのるように自動的に手の位置を変える。他は跳び直り反応と呼ばれ,動物の3本の足を手で握って一本足で立たせ,横に押しやると一本足のまま跳んで身体の平衡を保つものである。いずれも大脳皮質が障害されると起こらなくなる。

自律反射には,口にすっぱいものを入れると唾液(だえき)の出る唾液分泌反射,頸動脈圧が上がると交感神経活動が抑えられて全身の血圧が下がる頸動脈洞反射,光の強さに応じて瞳孔の大きさを変える抗光反射などがある。消化液の分泌や胃腸の動き,排便,排尿にも反射性の働きが多く含まれている。

反射はこのように身体機能の基本的な成分であり,常時多数の反射が働いている。これらの反射は独立に働くことができるが,身体全体の働きに有効に寄与するためには相互に有機的に関連しながら働く必要がある。多数の要素的な反射を複合させて複雑な身体機能にまとめ上げる働きを,シェリントンは〈神経系の統合作用〉と呼び,これが脳の働きの重要な原理の一つであると提唱した。

 反射は刺激に応じて自動的に働き,生まれつき定まった図式に従って反応を起こすのであるが,そのしくみは比較的簡単で,たとえていえば人形のからくりじかけのようなものである。あるいは機械系における単純な制御系に対応する性質をもっている。身体の成長や環境条件の変化に応じて,その動作を修正する働きは反射自体には備わっていない。近年,小脳には反射の誤動作を検出して,これを修正する適応能力を与える働きがあり,これにより反射の正確さや,多くの反射が複合して働くときの協調をはかり,反応全体の円滑さを保証する働きがあることが判明してきた。

 反射は身体に備わる自動的な制御器ということができるが,常時すべての反射がフルに働いてはかえってふつごうなことが起こる。例えば,重力に対抗して体重を支える下肢の伸筋には,伸張反射がよく発達しており,この反射は立っているときには下肢の屈曲を防ぐのに有効に働くが,座位をとるときに働くとかえってふつごうであり,抑制する必要がある。屈曲反射については,逆に立位のときには抑制されたほうがよいことになる。われわれが歩くときには下肢は伸展と屈曲を繰り返すが,これに応じて屈曲反射が実際に促進されたり,あるいは逆に伸展を起こすように反応が逆転することが知られている。また,脊髄を下降する多数の信号伝送路の中には,屈曲反射を促進し伸張反射を抑制するものと,その逆の作用をするものがあることが判明している。

上述のように,身体の状況に応じて反射が修飾されるほか,われわれが自分の意志により随意的に運動を起こすとき,その運動の結果に二次的に付随して起こる反射を防ぐしくみも中枢神経系には備わっている。例えば,縦縞模様のスクリーンを目の前で一方向に急激に動かすと,その方向に向けて姿勢が反射的に変わる。一本足で立っていると,スクリーンの動く方向に倒れてしまう。静止したスクリーンの前で目を急激に動かすと,網膜の縞模様の映像は同様に動くのであるが,姿勢への影響はまったく生じない。これは,随意的に目を動かすときには,それに伴って起こる視覚的な刺激が二次的な反射を起こさぬように防ぐしくみが脳の中にあることを示している。このしくみはまだよくわかっていないが,随意運動の司令信号が上位中枢から脊髄に送られるとき,随伴発射と呼ばれる信号が同時に感覚系に送られて,運動の結果起こる感覚刺激の作用を打ち消してしまうものと推論されている。この消去学説は,われわれが目を他動的に,例えば指で押して目を動かすと外界が動いて見えるのに,自分で動かす場合には外界は静止して見えるなど,運動系と感覚系の間の相互作用一般にあてはまる重要な仮説である。
執筆者:

反射 (はんしゃ)
reflection

物理学用語。波が異なる媒質との境界面にぶつかり,その一部がもとへ戻る現象。粒子線の反射は粒子線の波動性に基づいて起こる。波の波長に比べて境界面が滑らかであれば,反射の法則に従う方向に反射波が生じ,境界面の凹凸が波長と同じ程度であれば反射波はいろいろな方向に広がる。後者を乱反射といい,これに対して反射の法則に従う場合を鏡面反射という。

 反射の法則には次の3項がある。(1)反射波は,入射波と境界面の法線とがつくる面,すなわち入射面の面内にある。(2)反射波は入射波と境界面の同じ側にあり,境界面の法線に関して反対の側にある。(3)入射波および反射波が境界面の法線となす角をそれぞれ入射角および反射角といい,反射角は入射角に等しい。

 波のぶつかる相手が波長よりきわめて小さい微粒子,または原子や分子のとき,波の進行方向が変化する現象を散乱という。この場合,相手が結晶格子のように一定の秩序をもって整列しているなら,散乱波は相互に干渉して特定方向の入射波に対してだけ強くなる。これをブラッグ反射という。ブラッグ反射の条件は波長をλ,格子間隔をdとすると,2dsinθ=mλ(mは整数)である。ここでθは入射角の余角である。

 入射波のうち反射されるのはその一部であり,残りは屈折して境界面を透過する。入射波に対する反射波の強度比を反射率reflectivity,入射波に対する透過波の強度比を透過率transmissivityという。反射は波の伝わるようすが波長に比べて急激に変化する場所で起こるので,導波管中のマイクロ波や管楽器中の音波などの場合,異なる物質との境界面でなくとも,導波路の継目から反射が起こる。導波路を伝わる波と自由空間を伝わる波との両者ともに,その伝播(でんぱ)のようすは波動に対するインピーダンス(波動インピーダンス)を用いて表され,波動インピーダンスがZ1からZ2へ変わる場所の反射率Rは,となる。例えば,自由空間を伝わる音波ではρを媒質の密度,cを音速としてZ=ρcであり,垂直入射の電磁波では,εとμとをそれぞれ媒質の誘電率と透磁率とすればである。とくに光の場合,波動インピーダンスは屈折率で決まる。屈折率n1の透明な媒質から屈折率n2の媒質へ入射角φ1で入射し,スネルの法則を満たす方向φ2へ屈折する光の反射率Rと透過率Tとは,光の電気ベクトルが入射面に平行な偏光(p偏光と呼ぶ)のとき,

また入射面に垂直な偏光(s偏光)のとき,

となる。これらの式はフレネルの公式と呼ばれる。tanφ1n2/n1となる入射角ではRPが0となり反射光はs偏光成分のみとなる。このような入射角をブルースター角という。またn2n1のとき,sinφ1n2/n1となる入射角以上ではRPRsも1となる。このような場合を全反射といい,入射した光はすべて反射される。

 屈折率nGの媒質による反射を防止しようとする場合,なる屈折率の膜でその表面を覆えば,膜の厚さをdとして,nd=λ/4となる波長λの光に対して反射は0となる。このような膜を反射防止膜という。光学ガラス(nG=1.5~1.8)の場合はn=1.22~1.34の範囲に選べばよいわけであるが,実際にこのような条件を満たす適当な物質はないので,ふつうはフッ化マグネシウムMgF2n=1.38)をnd=135nmの厚さで用いることが多い。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「反射」の意味・わかりやすい解説

反射
はんしゃ
reflex

刺激に対して意識することなく,機械的に起る身体の比較的局所的な反応をいう。刺激が加わるとただちに一定の反応が生じるのが特色で,刺激とそれによって起る反応との関係は,受容器→求心性神経→反射中枢→遠心性神経→効果器から成る経路によって,生まれたときから決っている。この経路は反射弓と呼ばれる。

反射
はんしゃ
reflection

波動が1つの媒質から他の媒質へ向って伝搬していくとき,境界面で一部分がもとの媒質内へ戻る現象。X線などのブラッグ反射 (→ブラッグの条件 ) はもともとは回折現象であるが,格子面で反射されるのと同じになるので反射という言葉が用いられる。

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デジタル大辞泉プラス 「反射」の解説

反射

英国の作家ディック・フランシスのミステリー(1980)。原題《Reflex》。競馬界を舞台にしたシリーズの第19作。

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世界大百科事典(旧版)内の反射の言及

【運動】より

…特別な形の運動として,外眼筋の働きで視線をかえる眼球運動や,顔面の表情筋による表情の変化などがある。これらの運動を可能にしている骨格筋はすべて神経の支配を受けているが,大脳の意志に基づく随意運動と,無意識に自動的に生ずる反射運動に分けることもある。
[運動のメカニズム]
 (1)関節 身体各部位の位置の変化は,筋収縮により関節を軸とした回転運動に基づく。…

【脊髄】より

…後根繊維は身体のいろいろの部分からの感覚を灰白質にある神経細胞に伝える。脊髄に伝えられた感覚は,前角9層の運動細胞によって反射を行う経路(反射弓)や上位の中枢に伝える経路(脊髄上行路)に接続する。
[反射回路]
 脊髄の反射のおもなものとして,伸張反射と屈曲反射がある。…

【中脳】より

…上丘からは動眼神経を出す動眼神経核に接続があるので,これらの経路の働きにより視野の中に入ってきた一つの物体に目を向け(注視し),また眼球を動かして他の物体を注視することができる。上丘はまた視覚を介する反射の中継核ともなっている。(1)光反射 これは目に入ってきた光の量を調節する反射である。…

※「反射」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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