血圧(読み)けつあつ(英語表記)blood pressure

翻訳|blood pressure

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

血圧
けつあつ
blood pressure

血液が血管壁に及ぼす側圧のこと。普通血圧は水銀柱何ミリ (mmHg) という単位で表現するが,体内の血管の位置で異なり,平均血圧は大動脈で最も高く 100mmHgほどあるが,末梢の小動脈で急に低下し,毛細血管では 30mmHgほどになる。静脈はさらに低く,大静脈ではほとんどゼロになる。単に血圧という場合は動脈血圧を意味し,上腕動脈で測定される。心臓の拍動によって周期的に変動するが,心収縮期の最も高い血圧を最大 (高) 血圧,心拡張期の最も低い血圧を最小 (低) 血圧,その差を脈圧という。測定には血管にカニューレなどを入れてはかる直接法と,上腕を圧迫し血圧計で測定する間接法があり,日常の血圧測定は後者による。血圧計にはばね型 (アネロイド式) 圧力計と水銀圧力計がある。血圧は一般に年齢とともに上昇するが,最大血圧で 120mmHgぐらい,最小血圧で 70~80mmHgぐらいの範囲は健康な男子の大部分にあてはまる。世界保健機構 WHOでは,年齢とは関係なく,最大血圧が 160mmHg以上,最小血圧が 95mmHg以上のときを高血圧としている。また,多くの臨床医は最大血圧が 100mmHg以下の場合を低血圧としている。

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デジタル大辞泉の解説

けつ‐あつ【血圧】

血液が動脈血管内を流れているときに示す圧力。ふつう上腕部で測る。心臓が収縮して血液を送り出したときの最大血圧(収縮期血圧)と、弛緩(しかん)したときの最小血圧(拡張期血圧)とで示す。

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百科事典マイペディアの解説

血圧【けつあつ】

心臓の拍動につれて,血液が血管(普通は動脈)壁に及ぼす側圧。心臓の収縮期に一致した時期の血圧を最高血圧,拡張期の血圧を最低血圧という。通常は座位で右上腕部の血圧を測定する。心臓から拍出される血液量と末梢の血管の抵抗の2因子によって決定されるが,精神的緊張や気温などの影響で変動するので,正確な血圧を知るためには何度か繰り返し測定する必要がある。WHOの基準では,収縮期血圧が160mmHg以上か拡張期血圧が95mmHg以上のときに高血圧,収縮期血圧が100mmHg以下あるいは拡張期血圧が50mmHg以下の場合を低血圧としている。
→関連項目頸動脈

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とっさの日本語便利帳の解説

血圧

正常血圧は、収縮期血圧(最高血圧)一四〇mmHg、拡張期血圧(最低血圧)九〇mmHg以下。それより高いと高血圧、収縮期血圧が一〇〇mmHg以下の場合を低血圧とする。

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栄養・生化学辞典の解説

血圧

 血液が血管壁を押す圧力.通常動脈の血圧をいう.心臓が収縮するとき最も高く,このときの圧力を収縮期血圧といい,弛緩したときの最も低い圧力を拡張期血圧という.循環系疾患の可能性を知るよい指標となるので広く測定される.

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家庭医学館の解説

けつあつ【血圧】

◎心臓と動脈(どうみゃく)
◎動脈と血圧
◎収縮期血圧(しゅうしゅくきけつあつ)と拡張期血圧(かくちょうきけつあつ)
◎血圧と微小循環障害(びしょうじゅんかんしょうがい)
◎血圧と腎臓(じんぞう)
◎その他の血圧の調節作用

◎心臓と動脈
 心臓は、回数に個人差がありますが、安静にしている状態で1分間に70回前後拍動(はくどう)し、左心室(さしんしつ)からは、全身に向けて血液を送り出します(図「血液循環のしくみ」図「血液循環にともなう血圧の推移」)。
 この血液が流れる血管系を動脈といい、心臓とつながっている部分は1本ですが、からだの末梢(まっしょう)(末端)に向かうにしたがって枝分かれしてしだいに細くなり、最後は、直径8μm(マイクロメートル)(1μmは1000分の1mm)程度の太さの毛細血管(もうさいけっかん)になります。
 全身には、この毛細血管が網の目のように張りめぐらされています。
 私たちのからだは、何十兆という数の細胞で形づくられていて、1個1個の細胞は、この毛細血管を流れる血液から酸素と栄養素の供給を受け、これを材料にしてエネルギーを生み出し、細胞は生き、活動しています。
 流れてくる血液の量が不足すると、エネルギー不足におちいり、細胞は生命を維持できなくなります。
 このようなことがおこらないように、細胞に流れてくる血液の量を確保するシステムがからだには備わっています。

◎動脈と血圧
 たとえば、運動をして筋肉を使ったとしましょう。このときには、消費する酸素と栄養素の量が増え、筋肉細胞は多量の血液が必要になります。
 このときには、その情報が脳へ伝わり、その指令で自律神経(じりつしんけい)のうちの交感(こうかん)神経の反応が高まります。
 交感神経の反応が高まると、カテコラミン(カテコールアミン。副腎(ふくじん)から分泌(ぶんぴつ)されるアドレナリンと神経末端から分泌されるノルアドレナリンの総称)というホルモンの分泌が増えます。
 その結果、心臓が刺激されて拍動回数が増し、送り出される血液の量が増えます(心拍出量(しんはくしゅつりょう)の増大)。これを交感神経のβ(ベータ)作用といいます。
 いっぽう、筋肉細胞以外の細胞に血液を供給している細動脈(さいどうみゃく)(毛細血管になる直前のごく細い動脈)は縮んで細くなります(収縮)。これを末梢血管抵抗の増大といい、筋肉細胞に血液を供給している細動脈のほうに多くの血液が流れるようにするのです。
 ほかの水門は閉め、もっとも水を必要とする田へ水を送る水門のほうに、より多くの水が流れるようにするのと同じです。これを交感神経のα(アルファ)作用といいます。
 心臓から送り出される血液が増え、血液の出口にあたる部分が収縮するのですから、動脈には、内側から高い圧がかかることになります。この圧を血圧といいます。
 いいかえると、カテコラミンが細動脈を収縮させて血圧を上げ、必要とする部位に、より多くの血液が流れるように促すのです。水道のバルブを大きく開いたり、水の出口にあたるホースの先端をにぎると、ホースに高い水圧がかかるのと同じことです。

◎収縮期血圧(しゅうしゅくきけつあつ)と拡張期血圧(かくちょうきけつあつ)
 心臓は、血液を送り出した後、拡張して(広がって)血液をため、いっぱいになると、収縮して(縮んで)血液を送り出します。
 このうち、収縮しているときに動脈にかかる圧を収縮期血圧といい、これが正式の名称ですが、最高血圧、最大血圧ということもあります。
 拡張したときの血圧は拡張期血圧といいますが、最低血圧、最小血圧ということもあります。
 血圧について、よく「上がいくつ」「下がいくつ」といういい方をしますが、この場合の「上」は収縮期血圧、「下」は拡張期血圧を指しています。
●血圧の基準値とは
 その人の血圧が「正常」か「高い」かは、あらかじめ決められている基準値と比較して判断します。
 アメリカの血圧に関する合同委員会の決めた基準に照らして判断されることが多いのですが、日本高血圧学会の基準もほぼ同じです(図「日本高血圧学会の定義」)。
 この血圧の基準値は、どちらも心身の安静を保っているときの数値です。
 単に血圧といった場合は、ふつう、この安静時の血圧を指します。
 安静にしているときは、心臓の拍動が一定していて、血圧は、おもに細動脈の収縮によって生じます。つまり、水道のバルブの開き加減よりも、おもにホースの出口のにぎり方の強弱でホースにかかる圧が決まるのです。
●血圧の強さはどのくらい?
 アメリカの血圧に関する合同委員会の基準では、収縮期血圧130mmHg以下、拡張期血圧85mmHgを正常としています。
 この数値は、いったいどのくらいの圧力を表わすのでしょうか。
 1mmHgは、1平方cmあたりの水銀を1mm押し上げる力を表わします。
 水銀は、水の13倍の重さがありますから、水であれば13mmも押し上げることになります。
 収縮期血圧が130mmHgというのは、水に換算すると、1.69m押し上げる、ということになります。水道の水を流しているホースの途中に穴が開いているとすれば、1.7m近くも噴水のように水が噴き上がる勘定になります。
 安静時でさえ、いかに高い圧が動脈にかかっているかわかるでしょう。
 もし、収縮期血圧が160mmHgだとすれば、2m強も水が吹き上がる圧力がかかることになり、圧を下げなければ、長い年月のうちには、ホース、つまり動脈が傷んでくることが理解できると思います。

◎血圧と微小循環障害(びしょうじゅんかんしょうがい)
 血圧を上昇させる要因の1つとして、微小循環障害という現象が関与していると考えられます。この現象は、細胞で十分な酸素の供給やエネルギーが発生しないことが出発点です。
 細胞で酸素が不足したり、十分なエネルギーが発生しないとカテコラミンの分泌が増え、心拍数が増加し、細動脈が収縮して血圧が上昇します。血圧を上げて細胞への血流を増やし、より多くの酸素と栄養素を供給し、発生するエネルギー量を増大させようとするのです。ところが、細動脈が収縮しているために細胞への血流量は増えません。細胞へのぶどう糖の取り込みも減ります。
 すると、さらにカテコラミンの分泌量が増え、ますます血圧が上昇するという悪循環が生じるのです。
 血液中のぶどう糖をエネルギーに変えるのに、ふつうの人の2、3倍の量のインスリンを必要とする人がいます。これをインスリン抵抗性といい、血流量を増やし、より多くのぶどう糖やインスリンを細胞に届けるためにカテコラミンの分泌が増えることがきっかけとなり微小循環障害がおこってきます。
 微小循環障害がおこると、細胞が脂肪をエネルギー源として利用する際に必要な毛細血管に存在する脂肪(中性脂肪)を分解するリポたんぱくリパーゼの作用を受けにくくなります。この結果、中性脂肪が体内にたまり、動脈硬化(どうみゃくこうか)を発症・進行させる要因の1つとなります。
 肥満、運動不足、喫煙なども微小循環障害をおこす原因になります。
 喫煙時や高地滞在時などにみられる酸素不足に対しては、からだは、酸素を運ぶ赤血球(せっけっきゅう)の数を増やし(多血症(たけつしょう))、細胞に届く酸素量が多くなるようにします。多血症になると、血液の粘(ねば)りけが増し、流れにくくなって、これも血圧を上昇させる要因の1つとなります。
 いちばん細い毛細血管は、赤血球がやっと通れる程度の太さしかなく、赤血球の数が増えると、狭い出口に大勢の人が押しかけるのと同じで、流れが悪くなって血圧が上昇するのです。
 細胞に流れてくる血液の量が減少するのは、細胞に到達する一歩手前のところで、動脈から静脈(じょうみゃく)のほうへ血液が横流れする動静脈シャントがおこることも原因と考えられています。動脈硬化の強い人の静脈血を検査すると、酸素、インスリンなどの含有量が多くなっていることが傍証といえるでしょう。

◎血圧と腎臓
 腎臓は、血液から不要物を除いて尿をつくって体外へ捨て、血液を浄化しています。流れてくる血液の量が減少すると、十分に浄化できず、汚れた血液が体内をめぐるようになります。
 このようなことのおこらないように、必要十分な量の血液がたえず流れ来るようにするシステムが腎臓には備わっています。
●腎臓が血圧を上げるしくみ
 流れてくる血液の量が減少すると、腎臓は、レニンという物質の分泌量を増やします。レニンは、肝臓が分泌しているアンギオテンシノーゲンという物質にはたらきかけて、アンギオテンシンという物質に変化させます。
 このアンギオテンシンは、筋肉細胞などに血液を供給している細動脈を収縮させ、腎臓へ流れてくる血液の量を増加させます。その結果、血圧も上昇します。また、アンギオテンシンは、副腎(ふくじん)を刺激し、アルドステロンというホルモンの分泌を増加させます。アルドステロンの量が増えると、血液中にナトリウムがたまるようになります。ナトリウムは水を呼ぶのでその分、血液中の水も増え、全身をめぐる血液の量全体が多くなります。
 血液の量が増えれば、それだけ高い圧が動脈にかかり、血圧が上昇します。
●腎臓の血圧を下げるしくみ
 腎臓には、血圧を下降させるしくみも備わっています。腎臓に多量の血液を送る必要がなくなると、腎臓は、カリクレインという物質を分泌します。
 カリクレインは、肝臓から分泌されるキニノーゲンという物質に作用し、キニンという物質をつくります。
 キニンは、細動脈を広げて血液が流れやすくして血圧を下げるとともに、アンギオテンシンの作用を抑え、必要以上に血圧が上昇しないようにコントロールしているのです。

◎その他の血圧の調節作用
 脳下垂体(のうかすいたい)から分泌されるバソプレシン(抗利尿(こうりにょう)ホルモン、ADH)、副腎から分泌される糖質(とうしつ)コルチコイドのほか、甲状腺(こうじょうせん)ホルモン、副甲状腺ホルモン、性ホルモンなどは血圧を上昇させるようにはたらいています。
 また、プロスタグランジン、心房性ナトリウム利尿ペプタイドなどが血圧を下げるようにはたらいています。
 脳内ペプタイドという物質は、血圧を下げる作用も、上げる作用ももっています。

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世界大百科事典 第2版の解説

けつあつ【血圧 blood pressure】

血圧とは血液が血管壁に及ぼす側圧のことである。血液は心臓のポンプ作用によって心臓から送り出され,動脈系から毛細血管に至り,静脈系を経て心臓に還流するが,血圧はこの血管の部位によって異なる。しかし一般に血圧といえば,体循環系における動脈の血圧を指す。心臓からの血流は,心臓の定期的拍動によって押し出されるので,定常流ではなく脈流である。すなわち心臓の収縮期に対応して血圧は最大となり,心臓の拡張期に対応して血圧は最小となる。

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大辞林 第三版の解説

けつあつ【血圧】

心臓から血液が押し出されるとき、血管内に生ずる圧。心臓に近い動脈の圧ほど高く、毛細血管・静脈の順に低くなる。通常、上腕部の動脈で測定した値を用いる。心臓の収縮期におけるものを最高血圧、拡張期におけるものを最低血圧、両者の差を脈圧という。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

血圧
けつあつ

血圧とは

血圧とは、血液が、限られた血管というスペース内を血流として流れることで生じる、血管の壁にかかる圧力である。血圧は動脈血圧、毛細血管血圧、静脈血圧などに分類されるが、通常の血圧は動脈血圧をさす。大動脈、小動脈、細動脈と末梢(まっしょう)に行くほど血圧は低くなり、静脈血圧は0である。
 血圧は水銀柱の高さで示される。120/80ミリメートル水銀柱(mmHg)という血圧を例にとると、安静時に心臓から血液を拍出する収縮期に、水銀を120ミリメートル吹きあげる圧がかかっている状態で、これを最大血圧ともいう。つぎに心臓から血液の拍出がない拡張期には、収縮期に出た血液を心臓近位の大動脈が膨らんでプールし、これを拡張期に収縮して送り出す際に水銀を80ミリメートル吹きあげる圧がかかっていることを示す。年をとるに従い血管の弾力性が動脈硬化により減弱するため、大動脈の膨らみが減って血液をためられなくなってくるので、拡張期の血圧はだんだん下がり、収縮期と拡張期の血圧の差(脈圧とよぶ)が大きくなっていく。拡張期血圧が下がることにより脳などの血液循環が減ると、十分な酸素や栄養を末梢の細胞に送れなくなるので、全体の血圧をあげて拡張期でも血流が行くようにしている。高齢になると血圧があがるのはこのためで、老年性高血圧はこうしておこる。老年性高血圧は収縮期血圧だけが高いものをよぶ。このため高齢者の血圧管理目標値は若い人より高くなる。また高齢者では自律神経のバランスも悪くなり、夜間に下がるはずが逆にあがってしまう夜間高血圧も多い。[都島基夫]

高血圧と動脈硬化

通常の血圧120/80mmHgという場合、それは安静にしているときの血圧で、その人にとっては覚醒(かくせい)時でもっとも低い血圧である。安静時毎分70拍の脈拍が走って毎分120拍になると、水道の蛇口をひねって水をたくさん出したのと同じように血圧は上昇し、収縮期で約80~100mmHgは上昇し200~220mmHgになっている。通常、緊張して仕事をしているときには140~160mmHgになっていると想定できる。安静時に収縮期血圧が150mmHgあれば、その人は走ったときには250mmHgにあがっていることになる。
 120mmHgという血圧は、水圧に直すと水銀の比重14をかけた1680ミリメートル水柱(mmH2O)、すなわち水を1.68メートル吹きあげる圧が血管壁に1拍ごとに死ぬまで休むことなくかかっていることになる。走ったとき200mmHg(2800mmH2O)にあがれば、水を2.8メートル吹きあげる圧が血管壁にかかっていることになる。
 血液は赤血球や白血球、血小板という固形成分が40~45%あり、これをヘマトクリットとよぶ。残りの55~60%の液体成分にもタンパク、糖、脂肪などが含まれていて、浸透圧を保ちながらドロドロの土石流のような状態で、秒速1メートル前後のスピードで血管の中を流れている。血圧が高いほどこれが血管壁に強く押しつけられ、「ずり応力」という引きずる力がかかる。それが血管壁を傷つけ、そこからコレステロールが進入したり、傷ついたあとが硬くなる。血圧が高くて血管壁にかかる刺激が強いと、防御反応により血管壁が厚くなり動脈硬化が進む。高LDLコレステロール血症や、トリグリセライド(中性脂肪)が高くHDLコレステロールが低い状態があれば、比較的太い動脈で、コレステロールが血管壁内にしみ込んで蓄積したアテローム性動脈硬化が進む。コレステロールが高くなくても血圧が高いと細い血管は硬くなって細動脈硬化が進み、ラクナ梗塞(こうそく)の原因となる。さらに細動脈では栄養が足りなくて抵抗力がなくなると、小さな細動脈瘤(さいどうみゃくりゅう)を多発性につくって脳出血を発症させる。
 このように高血圧はすべての種類の動脈硬化の進展因子になる。高血圧の管理目標値は、若年者では120/80mmHg未満、壮年期までは130/85mmHg未満を正常血圧とする。高齢者で動脈硬化が進んでいる場合は年齢に応じて高い値に目標血圧が設定される。[都島基夫]

高血圧と自律神経

自律神経は自分の意思と無関係に循環をうまく調節し、血液を必要なところへ送り、酸素と栄養を細胞に供給して、個体にある60兆個の末梢細胞を細胞死から守っている。食後眠くなるのは腸の蠕動(ぜんどう)や消化酵素の産生等のため、働いている消化器や組織に血液をたくさん送っているので、脳へ行く血液の循環が減るためである。走ったり飲酒した後にドキドキ感じて脈拍が増えるのも、不足した酸素やエネルギーを末梢細胞へすばやく送って補充するためである。体細胞にエネルギーがなくなれば人はストレスと感じ、ストレスホルモンであるアドレナリンやノルアドレナリンなどを分泌して血圧をあげ、心拍数を増やす。さらに、脂肪細胞に蓄積された中性脂肪を分解してエネルギーにしている。すなわちストレスホルモンはα(アルファ)1受容体を介して血管を収縮させるので、毛細血管の血流は速くなる。このときホースにあたる大中動脈では血圧があがっている。またストレスホルモンはβ(ベータ)受容体に作用して心臓の拍動を高めて心拍数を増やすので、水道の蛇口を広げて流水量を増やすと同じ理屈で血圧をあげる。毛細血管が収縮すると、ホースの出口を握ってやるのと同じ機序(メカニズム)で、血圧があがる。
 健康な人では、適当な交感神経の刺激によりストレスホルモンが出て反応が適切に作用すれば、心拍数の増加で増えた血液は血管が締まることでどんどん末梢細胞に送り込まれ、酸素とエネルギーを末梢細胞に供給でき、ストレスは解消される。過剰な持続的ストレスがかかって血管が締まりすぎたり、血液の粘度があがり流れが悪くとなると、末梢動脈の血流に対する過剰な抵抗が生じて、血液の末梢細胞への供給は遅延し、血流が滞り、細胞はますますストレスを高めてストレスホルモンを出す悪循環が生じる。この微小循環障害によって血圧はさらにあがり、中性脂肪を含む大型リポタンパクは末梢細胞近くで待っているリポタンパクリパーゼに達するのが遅れる。このため高中性脂肪となり、HDLコレステロールが低下した脂質異常症を生じる。ブドウ糖の末梢細胞への取り込みが低下するだけでなく、ストレスがインスリンの抵抗性の原因となり、血糖があがり、いわゆるメタボリックシンドロームが出現する。
 ストレスホルモンは精神的に緊張しても分泌され、血圧上昇の原因となる。家では血圧が正常なのに、病院へ行くとドキドキして血圧があがる白衣高血圧はこれにあたる。
 また、人は自律神経の二重支配を受けており、日中は闘争神経である交感神経が緊張してストレスホルモンであるアドレナリンやノルアドレナリンなどの分泌が多く、血圧は高めになる。夜は副交感神経の緊張が高まり交感神経活性は低下して、血圧が下がり、脈拍数は減り、静かな眠りにつくことができる。眠りから醒める早朝から交感神経の緊張が高まるため、早朝高血圧がおこり、朝10時ごろまでは血圧が高いことが多く、この時間帯に脳卒中や心筋梗塞の発症が多発する。さらに早朝高血圧を引きおこす原因には夜の多量飲酒があり、酔い覚め時に交感神経が活性化して顔が青白くなり、血管が収縮して、明け方に高血圧や脳卒中を引きおこす原因になる。
 早朝に食事をせずに散歩に出る人がいるが、空腹時はストレス状態にあり、脂肪細胞に蓄積した中性脂肪を分解してエネルギーにしている。この中性脂肪の分解にはノルアドレナリンが必要で、早朝空腹時の散歩はストレスの二重負荷になって危険である。エネルギーになるものを食べてから歩くようにするとよい。[都島基夫]

高血圧の治療

よく高血圧は遺伝するといわれている。遺伝子解析が行われるようになり、高血圧になりやすい遺伝子も解明されてきた。しかし、住民健診での調査では、多くの高血圧の人では食塩に対する味覚感受性が低下していた。高血圧の人に入院中に食塩摂取量1日7gに設定した減塩食を食べてもらうと、7~10日で食塩に対する舌の味覚感受性が回復して、以前の食事が塩辛いと感じるようになった。子供のときから塩分の多い食事をしていると塩味がわからなくなる人が多くみられ、これが高血圧の原因になっていると考えられる。すなわち、食塩は腎臓(じんぞう)からの排泄(はいせつ)は遅く、たくさんとり過ぎるとのどが渇いて水分を多く摂取するので血管内は水分であふれ、血管が血液で張った状態になる。このため血圧はあがり、また血管内の水が細胞内外にあふれて浮腫(ふしゅ)(むくみ)となりやすい。また内臓脂肪型肥満ではストレスホルモン濃度も高く、高インスリン状態となり、これが腎臓からの食塩の排泄をさらに遅らせるので、肥満者では高血圧が出現しやすくなる。食塩摂取量が多いとわずかなストレスでも昇圧反応は著明となり、白衣高血圧もおきやすい。
 歩行などの適切な有酸素運動によって筋肉の緊張弛緩が行われ、末梢、微小循環をよくするので、膝(ひざ)などの故障のない人では毎日6000歩以上歩くことを心がけるとよい。運動を継続することにより細動脈の循環がよくなり、新しい血管も産生されて血圧は下がってくる。しかし、競技者が行う激しい運動はストレスが伴い、運動中は血圧が上昇し心血管系に負担がかかり、スポーツマンハートといわれるような心臓の肥大や、大血管の蛇行を生じることもある。
 血圧降下剤の多くは末梢血管を広げて循環をよくする薬で、ホースの出口を開く効果により血圧を下げる。ところがこれとまったく逆の作用があるのが喫煙で、たばこ中のニコチンは交感神経を刺激して血管を収縮したり、脈拍数をあげる作用がある。たばこの煙は一酸化炭素を含み、酸素を運ぶ赤血球に一酸化炭素が結合し末梢細胞の酸素不足を来たしてストレス状態を生み、心拍数が増えて血圧をあげる。習慣性に喫煙していると酸素を運ぶ赤血球が増え、血液という土石流の土石部分が増えるのと同様のドロドロ血液となり、血球成分が43~45%から46%以上に増える。そして、赤血球同士がくっついた連銭形成が生じて毛細血管の循環を悪くして、血圧が上昇する方向に働く。高血圧治療中の人の喫煙は、投薬などの治療の効果を減じ、医療費が浪費されることとなる。
 夏は体温の熱を放散しようと末梢血管が開き、血管抵抗が低下して血圧は下がり、冬は血管が収縮して保温に働き、血圧があがる傾向にある。高血圧の人では夏よりも冬に血圧降下剤(薬)の量が増える人も多い。[都島基夫]

低血圧

低血圧では、めまい、全身倦怠感、朝なかなか離床できないなどの症状が、往々にして現れる。慢性疲労症候群、滴状心(心臓がたれ下がったようにみえる)の人に多いが、多くは長命であり、とくに症状がなく、日常生活に支障がなければ治療の必要はない。[都島基夫]

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精選版 日本国語大辞典の解説

けつ‐あつ【血圧】

〘名〙 血液が血管内を流れているときに示す圧力。心臓の収縮力、血管壁の弾性、血液の量などの要因で、その強さが定まる。動脈血圧、静脈血圧、毛細管血圧などがあるが一般には動脈血圧をさす。
※蓼喰ふ虫(1928‐29)〈谷崎潤一郎〉一二「血圧の高い人間の標本のやうな恰好をして」

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世界大百科事典内の血圧の言及

【延髄】より

…胸部では心臓の運動を抑制し,腹部では食道,胃,小腸,大腸の運動を促進する。迷走神経はまた,これらの内臓からの感覚を延髄に伝えたり,大動脈(弓)に加わる血圧の状態を延髄に伝え,それに応じて心臓の運動を調節する。舌咽神経は,舌と咽頭に分布し,知覚,運動,分泌をつかさどる。…

【血管系】より

…寄生から自立への激しい変化が,血管系を中心に生後間もない瞬時の間に行われる。
[血管系の生理と病理]
 動脈血圧は性別や年齢で異なるほか,情動や代謝状態などによって影響を受ける。正常値の限界を明確に定めることはできないが,健康な成人男子について上腕動脈で測定した結果は,収縮期血圧は100~150mmHg,弛緩期血圧は60~90mmHgとされ,年齢とともに上昇する。…

【高血圧】より

…血圧の高い状態が続き,これに特有な心臓血管系の障害(高血圧性血管障害)を伴う病気を,高血圧または高血圧症という。正常な人でも時には血圧の上昇することがあるが,それは一時的な血圧上昇であって高血圧とはいわない。…

※「血圧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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