日本大百科全書(ニッポニカ) 「腎損傷」の意味・わかりやすい解説
腎損傷
じんそんしょう
腎外傷ともいう。腎臓は後腹膜腔(くう)にある実質性の臓器で、腹部大動脈、大静脈から分岐した短い動静脈によって固定されており、後面は硬い背筋によって支持されている。そのため、交通事故、高所からの落下、けんかなどによる腹部への打撲によって、腎へ間接的に外力が及ぶだけで損傷を受けやすい。しかし、腎はその表面がじょうぶな線維性被膜で覆われているので、腎実質の亀裂(きれつ)が小さい場合には、大部分は被膜下血腫(けっしゅ)を形成する一方、大部分の血液は尿管、膀胱(ぼうこう)を経て血尿として外部へ排出される。
外力の程度にもよるが、ほとんどは実質の一部に亀裂が入る程度の軽症であり、安静臥床(がしょう)だけで出血はまもなく止まる。亀裂が大きく、被膜が破れて腎周囲に血腫が広がった場合や、腎茎血管が破れたような場合は、ただちに手術が必要となる。受傷後、すぐに静脈性腎盂(じんう)撮影、腎血管造影、CTスキャンなどによって損傷の程度を知ることが不可欠である。治癒してから6か月間は、水腎症や高血圧などの後期合併症に留意しつつ、経過を観察する。
[松下一男]