…中世には海賊は海上を航行する船がほかの海賊から襲撃されないように警固を目的に雇われることがしばしばあった。南北朝時代の貞和年間,伊予村上氏の一族が東寺から酒肴料(しゆこうりよう)と称する警固料をえていたのは,その一例である。また海賊衆は貿易船の護送にもあたったが,室町幕府が遣明船を派遣するとき,その船舶を海賊の被害から守るため海賊衆にたいして警固の役を課した。…
…ほんらい海賊は権力に組みこまれることを好まない存在であったが,南北朝・室町時代の守護大名や守護を凌駕して台頭した戦国大名が,その支配力を領国内の浦々や港湾,海にそそぐ河口近辺におよぼしはじめると,そうした所を根城とした海賊は,いままで所有していた所領や海上諸権益の安堵や新しい所領の充行(あておこない)を大名権力からうけながら,守護大名の被官となったり,戦国大名の家臣に,それもその性格から海上軍事力を構成する警固衆に編成されて海賊としての性格を失って封建家臣に変身する経緯をたどるのがふつうである。はじめ海賊は海上を航行する船がほかの海賊から襲撃されないように警固することを目的に雇われて〈酒肴料〉と称する警固料をえて,それを生活の糧としていたが,守護の被官となっても海上警固をその任務として警固衆あるいは海賊衆とよばれ,戦国大名治下でもそうよばれた。戦国大名は警固衆諸氏を譜代家臣の指揮下において,自己の直轄地に警固衆のための特別な給地〈警固料〉〈船方給〉を設定して強力な警固衆の育成に力をそそいだ。…
… また訴訟にあたって,担当の奉行を招き,饗応し,引出物を贈ることも,前掲の太良荘預所による六波羅探題の奉行のもてなしにみられるように,鎌倉時代後期以降はふつうのことになっていた。当事者はそれによって奉行との人間関係を強め,訴訟を有利に導びこうとしたのであるが,この費用は〈沙汰用途(訴訟費用)〉の一部とされ,やがて室町時代になると,幕府の賦課する段銭(たんせん)の免除などのための訴訟にあたって,荘園支配者が奉行をもてなす費用は一献料(いつこんりよう),酒肴料(しゆこうりよう)といわれ,百姓がその半分を負担するのが慣行化し,奉行もその収入を当然のこととして期待するようになっていく。訴論人の主張の対決よりも,こうしたもてなしによる訴訟の解決方法が一般化した点にも,日本の社会におけるもてなしの慣習の根深さがうかがわれる。…
※「酒肴料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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