日本大百科全書(ニッポニカ) 「銅アンモニア溶液」の意味・わかりやすい解説
銅アンモニア溶液
どうあんもにあようえき
cuprammonium solution
水酸化銅(Ⅱ)を濃アンモニア水に溶かした深青色溶液で、テトラアンミン銅(Ⅱ)水酸化物の濃アンモニア水溶液に相当する。1857年スイスのシュワイツァーE. Schweitzerが、この溶液がセルロースを溶かすことを発見したので、シュワイツァー試薬ともいう。人絹、レーヨン、キュプラなどの再生セルロース繊維の製造に利用される。
この溶液にセルロースが溶解すると、テトラアンミン銅(Ⅱ)イオン[Cu(NH3)4]2+と光学活性な錯体を生成し、これに水あるいは酸が作用すると分解され、セルロースが再生される。工業化は19世紀末から20世紀にかけてヨーロッパで発展したが、日本では1929年(昭和4)宮崎県延岡(のべおか)で初めて行われた。このセルロース溶液は空気中の酸素で酸化を受けるため、工業プラントでは密閉系内で銅アンモニア溶液の調製とセルロースの溶解を同時に行い、紡糸までの工程は連続して進行される。
セルロース繊維製造のほか、セルロース粘度測定用溶媒に利用され、セルロース繊維と絹は溶け、羊毛は溶けないことを利用して、繊維の鑑別にも使われる。
[岩本振武]