再生セルロース繊維の一つ。銅アンモニア法によってつくられたレーヨンで、銅アンモニアレーヨンともいう。日本では「ベンベルグ」という商品名で市販されている。ワタの実の短繊維であるリンターまたは上質の木材パルプを銅アンモニア溶液に溶解し、これを紡糸液として口金より流水中で約400倍に延伸しながら冷固させて単糸とする(銅アンモニア法)。化学的にはその構造はセルロースである。硫酸銅水溶液にアンモニア水を加えた銅アンモニア溶液では、アンモニア水の働きで水酸化銅が沈殿してくるが、さらに過剰のアンモニア水を加えると水酸化銅テトラアミン(第四アミン)を生成し、セルロースはこれにのみ溶ける。紡糸したあとの流水中から銅とアンモニアを回収することが経済的にも重要であり、イオン交換樹脂などを用いる方法が検討されている。紡糸口金はニッケル製で直径0.8ミリメートルという大きな孔(あな)があけられているが、それで0.5デニール(糸の太さを表示する方法。450メートルで重量0.05グラムの単糸の太さを1デニールという)という細い単繊維がつくられるのは、流水延伸が効果的に用いられているためである。この第一段紡糸でアンモニアの90%、銅の40%が溶出するが、糸の芯(しん)のほうはまだ凝固していないので、第二凝固浴として5%ぐらいの硫酸溶液中を走らせて完全に凝固させる。紡糸された糸は撚(よ)りをかけて撚り糸とし、水洗乾燥して製品とする。
キュプラは細くて優雅な光沢をもった糸なので、絹に似た感触をもち、主として高級薄物の織物がつくられている。肌着としての風合いがよいので、洋服裏地、高級下着、パジャマなどに用いられている。
[垣内 弘]
『宗像英二著『道は歩いた後にある――研究を工業化した体験』(1986・東京化学同人)』▽『山中孝・野中郁江著『旭化成・三菱化成――先端技術にかける化学』(1991・大月書店)』
商品名ベンベルグ.銅アンモニア法による再生セルロース繊維.リンターまたは木材パルプを銅アンモニア溶液に溶解し,これを紡糸液として口金より押し出し,流水とともに円すい形の紡糸漏斗中を流下させ,約400倍に延伸したのち,凝固させ糸条とする(流下緊張紡糸法).漏斗内で紡糸液中のセルロース-銅アンモニア錯化合物は加水分解し,銅セルロース錯化合物(青糸)にかわる.青糸はグルコース単位1 mol 当たり約3/4 mol の銅を含む.これは硫酸浴で脱銅され,水洗,仕上,乾燥の工程を経て糸となる.緩慢な凝固と,その過程中に行われる延伸を特徴とする.キュプラは,
(1)きわめて細い単糸繊度(約1.3 d),
(2)断面にスキン,コアーのない均一構造,
(3)比較的重合度が高い(約450~550),
(4)銅,その他の薬品を循環使用できる,
などの特徴がある.優雅な光沢があり,耐摩耗性などビスコースレーヨンより一般にすぐれている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…日本には1905年レーヨン糸が初めて商品として輸入された。銅アンモニアレーヨン(キュプラ)はセルロースが酸化銅を含むアンモニア水溶液に溶けるという1857年のシュワイツァーE.Schweizerの発見に基づき,ドイツで91年にフレメリーM.FremeryとウルバンJ.Urbanが最初に紡糸した。しかし,初めて有用な人絹が作られるようになったのは,1918年にティーレE.Thieleが発明した延伸紡糸法によってである。…
…絹糸に似た繊維を作るのは化学者の夢であって,1882年に硝化法人絹が発明され,92年にビスコース人絹(ビスコースレーヨン)が作られ1904年に工業生産に移され,今日でも世界各国で大量に作られている。銅アンモニア人絹cuprammonium rayonはキュプラcupraまたはベンベルグ(商品名)と呼ばれ,製法の発明はビスコース法より早く1890年であり,97年に初めて工業化された。ベンベルグは天然絹糸に似た外観と手ざわりをもつ高級人絹であるが,生産費が高いため,生産量はビスコースレーヨンよりはるかに少ない。…
…ティーレはベンベルグJ.P.Bembergに雇われ,この2人によって細くて強い人絹が製造された。銅アンモニアレーヨンはベンベルグレーヨンBemberg rayon,キュプラcupraなどと呼ばれる。 銅アンモニアレーヨンはビスコースレーヨンとともに,再生セルロースであり,多くの性質はビスコースレーヨンに類似している。…
※「キュプラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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