化学辞典 第2版 「電子雲膨張系列」の解説
電子雲膨張系列
デンシウンボウチョウケイレツ
nephelauxetic series
錯体ができると配位子は中心イオンの正電荷によって分極し,配位子の電子は中心イオンに引きつけられる.そのため,中心イオンの有効核電荷は減少し,中心イオンの電子は広がり出るようになる.分子軌道論的に考えれば,中心イオンの電子が配位子との間にできる軌道に入ることにより,ある程度非局在化することになり,中心イオンの電子間反発は減少する.電子間反発はG. RacahのA,B,Cなどのパラメーターを用いるのが普通である.中心金属の自由イオンのパラメーターを B0,錯体中の金属イオンのそれをBとすると,その金属イオンの各配位子に対する1 - B/B0 の値は次の順で増大する.
F- < H2O < NH2CONH2 < NH3 < C2O42- <
en < NCS- < Cl-~CN- < Br- < I-
Bの減少は電子間反発の減少,したがってd電子雲の拡張を意味するので,C.K. Jφrgensenはこの系列を電子雲膨張系列(nephelauxetic,ギリシア語で雲が広がるの意,series)と名づけた.したがって,この系列から,配位子と中心金属イオンとの軌道の重なりの大きさの順序の目安を得ることができる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報