顔面けいれん(読み)がんめんけいれん(英語表記)Facial spasm

六訂版 家庭医学大全科 「顔面けいれん」の解説

顔面けいれん
がんめんけいれん
Facial spasm
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 顔面けいれんはまぶたや口角などの顔面の筋肉がぴくぴくとけいれんする病気です。ほとんどの場合は片側だけですが、まれに両側にみられることがあります。比較的女性に多く、発症は40~50代が多いのですが、どの年齢層でも起こります。

 飲酒やストレス、不安などで悪化します。患者さんにより、持続的にけいれんがみられる場合と、普段は無症状ですが何らかの契機でけいれんが起こる場合とがあります。

原因は何か

 顔面けいれんが起こる原因として注目されているのは、脳に達する血管が、脳幹(のうかん)という脳の幹にあたる部分で顔面神経を圧迫することです。そのため、高血圧糖尿、喫煙者などで動脈硬化になりやすい人は、顔面けいれんが起こりやすくなります。

 そのほかにも脳幹腫瘍(しゅよう)がある場合、また明らかな原因が見つからないことなどがありえます。

検査と診断

 顔面けいれん症状と特徴的なけいれんから、診断は容易です。けいれんの原因を突き止めるためにMRICTなどの画像診断や、神経伝導検査、筋電図などの検査を行うことがあります。血管が脳幹を圧迫していることを最もはっきり確認できるのは血管造影と呼ばれる検査で、血管にカテーテルを入れて造影剤を流して血管の走行を調べます。

 しかし、血管造影は脳梗塞などの危険を伴うことがあるので、MRIと同時に、血管の走行が体を傷めずにわかるMRAという画像診断で診断されることもあります。

治療の方法

 内服治療として、抗コリン薬抗てんかん薬などがありますが、効果は比較的弱く、短期間で再発することがあります。

 最近、ボツリヌス毒素をけいれんする筋に注射するボツリヌス療法が行われるようになりました。これは細菌兵器として使われることが危惧されているボツリヌス菌からの毒素と同じものですが、治療に使われる量は致死量よりはるかに少量なので、命に関わることはありません。ボツリヌス注射により、けいれんしている筋肉を弱めることがこの療法目的です。ボツリヌス注射治療は外来でできますが、効果は約3カ月なので繰り返し注射してもらう必要があります。

 脳の血管が脳幹を圧迫している場合、手術が根本的な治療法になります。圧迫している血管と、圧迫を受けている脳幹の間にウレタン樹脂などのクッションを設けて圧迫を取ることが目的です。

野寺 裕之, 梶 龍兒

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「顔面けいれん」の意味・わかりやすい解説

顔面けいれん
がんめんけいれん

顔面筋の一部または全体におこる不随意収縮の総称で、顔筋けいれん、顔面筋の異常運動亢進(こうしん)ともよばれる。脳の器質的疾患(脳腫瘍(しゅよう)など)の部分症状としてもみられるが、機能的におこる場合が多い。30歳以上、とくに50歳代の女性に多くみられる。一般に、一側の顔面筋に不随性、発作性、反復性にけいれんをきたす。やや左側に多い。目や口の周囲筋に律動的な収縮がおこり、長期間続くこともまれでなく、精神的緊張などのストレスによって増悪しやすい。従来、心因性ともいわれていたが、近年、原因として、顔面神経が脳幹から出て数ミリメートルのところで髄鞘(ずいしょう)の移行部への圧迫があげられる。また、顔面神経に接触する小動脈の拍動が原因とされる例が少なくないといわれており、責任血管としては、前下小脳動脈がもっとも多く、ついで後下小脳動脈、その他椎骨(ついこつ)動脈、内耳動脈などがあり、ほかに静脈、腫瘍(しゅよう)が原因となることがある。このような場合には手術(ジャネッタJannetta法)による完治が期待できる。そのほか、薬物療法として、バクロフェン、カルママゼピン、クロナゼパム、ジフェニルヒダントインなどによるものがあり、ほかにボツリヌス毒素注入法、経皮的高周波凝固術がある。

[加川瑞夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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