化学辞典 第2版 「ATR法」の解説
ATR法
エーティーアールホウ
ATR method
赤外反射スペクトルの一種で,attenuated total reflection methodの略称.KRS-5(44% 臭化タリウムと56% ヨウ化タリウムの混晶),Geなど赤外線に対して透明で屈折率の大きい物質でつくられたプリズムと試料を密着させ,その界面にプリズム側から全反射に近い角度で赤外線を入射して,その反射スペクトルを測定すると,試料の吸収帯がある領域では屈折率が複素数となり,かつ異常分散が起こるために境界面での全反射の条件が破れて,反射スペクトルは試料の吸収スペクトルにほぼ対応したものとなる.吸収スペクトルと比較して,バンドのひずみや相対強度の変化などはある程度起こるが,通常の透過法による測定が困難な固体,繊維,塗装された顔料などの赤外スペクトルを容易に得ることができる.この方法では,測定に用いる光が試料側にその波長程度しか浸透せず,したがって,界面およびそれに近い部分のみが測定に関与する.より明瞭なスペクトルを得るために多重反射法も用いられる.また,入射角や偏光方向をかえて精密な測定をすることにより,吸収帯領域における屈折率と吸収係数を同時に求めることができる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報