赤外線(読み)せきがいせん(英語表記)infrared rays

精選版 日本国語大辞典 「赤外線」の意味・読み・例文・類語

せきがい‐せん セキグヮイ‥【赤外線】

〘名〙 (infrared rays の訳語) スペクトルで可視光線の赤色部の外側に現われる光線。波長が可視光線より長く、マイクロ波より短い約七五〇〇オングストロームから一万オングストロームの電磁波の総称。目には見えないが熱作用が強く、透過力も強い。医療や赤外線写真などに利用される。熱線。〔新編中物理学(1893)〕
[語誌]一八〇〇年発見されたが、物体の温度を高める性質を持っているところから heat ray ともいい、明治中期までは「熱線」と直訳されていた。しかし、明治の二〇年代後半から、この光線の性質がより明らかになるにつれ、英語では infrared rays が主流となり、対訳の日本語にも直訳「赤外線」が現われ、大正期にかけて一般化した。

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デジタル大辞泉 「赤外線」の意味・読み・例文・類語

せきがい‐せん〔セキグワイ‐〕【赤外線】

太陽スペクトルの赤色部の外側にあって目に見えない光線。波長は約0.77ミクロンから1ミリ程度で、熱作用が大きく透過力も強いので、医療や赤外線写真などに利用する。テレビのリモコンや携帯電話のデータ転送など、近距離データ通信にも用いられている。熱線。IR(infrared)。インフラレッドレイ
[類語]放射線放射能宇宙線熱線遠赤外線紫外線可視光線アルファ線ベータ線ガンマ線エックス線レントゲン線

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改訂新版 世界大百科事典 「赤外線」の意味・わかりやすい解説

赤外線 (せきがいせん)
infrared rays

可視光の長波長端(波長ほぼ700nm)から電波の短波長端(波長ほぼ1mm)の間の電磁波の総称。光のスペクトルでいうと赤色の部分の外側にあたるのでこの名がある。1800年にイギリスのF.W.ハーシェルが,太陽スペクトルの赤色部分より長波長側に熱効果の大きい部分があることを発見したのが最初である。波長数μm以下を近赤外,波長25μm以上を遠赤外,その間を中間赤外と呼び,また,波長25μm,30μmまたは50μmを境として,それ以上を遠赤外線,以下を近赤外線と総称することもある。ただし,これらの境界は明確ではなく,ことに電子回路で発生されるコヒーレンスのよい電磁波は波長が短くてもサブミリ波などと電波用語で呼ばれる。赤外線はその熱作用で特徴づけられる電磁波であり,物質が広義の近赤外線を吸収すると物質内の熱運動が励起されて温度が上昇する。このため,この部分を熱線heat raysと呼ぶこともある。

分子振動や結晶の格子振動のスペクトルは近赤外から中間赤外領域に,軽い分子の回転スペクトルは遠赤外領域に現れる。原子,分子の高い電子励起状態間の遷移波長も赤外領域にある。また何種類かの半導体のバンド間遷移,不純物準位間遷移も近赤外から遠赤外領域にわたって現れ,これらは内部光電効果として赤外線の検知に利用される。

水晶は波長3μmくらいまで,フッ化リチウムLiFやフッ化カルシウムCaF2は5~6μmまで,塩化ナトリウムNaClは15μmまで,臭化カリウムKBrは25μmまでの光に対して良好な透過特性を示す。タリウムの化合物からなるKRS-5(TlBr-TlI),KRS-6(TlBr-TlCl)などは透過率は50%以下と小さいが,近赤外から数十μmの遠赤外にわたり平たんな透過特性を示す。分光器用の分散系としてこれらの物質を材料としたプリズムが用いられるので,波長25μm程度までをプリズム赤外領域と呼ぶことがある。不純物濃度の小さいケイ素SiやゲルマニウムGeも中間赤外まで比較的よい透過特性を示す。遠赤外領域ではポリエチレンポリスチレンテフロンパラフィンなどが透過率のよい材料である。一般に金属は赤外領域で高い反射率をもち,金,銀,白金,アルミニウムなどの金属あるいはその蒸着面が赤外領域での鏡,反射型フィルターなどの材料として用いられる。

これまで赤外領域では高温白熱体が唯一の光源であった。中間赤外領域で代表的な光源は,グローバー(日本ではシリコニットの商品名で呼ばれることが多い)とネルンスト・グローアーである。前者は細い棒状の炭化ケイ素に10A程度の電流を流し1300K程度に熱したもの,後者は酸化ジルコニウムZrO2を主成分とした棒に1A程度の電流を流し1700K程度に白熱させたものである。近赤外領域ではさらに高温を得るためにタングステン白熱電球や,ジルコニウムや炭素のアーク灯が用いられ,遠赤外領域では波長100μm以上で比較的強い発光がある高圧水銀灯などが用いられる。

 光と電波の谷間といわれた赤外領域にも,レーザーの開発で,多くの強いコヒーレント光源が得られるようになった。近赤外域では3価のネオジウムイオン(Nd3⁺)の,波長1.06μmの電子遷移が連続的にもパルス的にも発振する。ことにガラスを母体としたネオジウムレーザーでは,レーザーの体積を大きくできるので,大きな出力が得られる。

 中間赤外領域では5μm帯の一酸化炭素レーザー,10μm帯の炭酸ガスや一酸化二窒素レーザーの実用的価値が高い。これらは分子の振動回転遷移が発振するので,互いに接近した数十本から数百本のレーザー線が得られる。大型のレーザーでは連続的に数十Wから数百W,高圧気体のレーザーでは数MWの瞬間パルス出力が得られ,これらは分光学や核融合の研究ばかりではなく,布地の裁断や鉄板の加工など工業的用途にも用いられている。

 遠赤外領域では水蒸気やシアン化水素などの放電で波長数十μmから数百μmの範囲で数十本の発振線が得られており,これらは分光分析用光源として用いられている。また上記炭酸ガスレーザーなどで,アンモニアメチルアルコール,フッ化メチルなど100種類近い分子を励起して遠赤外回転遷移で発振させるいわゆる光励起型遠赤外レーザーは千数百本の発振線をもつ。ただしその多くは,出力がそれほど大きくなく,他の目的に使用されるまでには改善の余地がある。

熱起電力を検知する熱電対,あるいはそれを直列に連結した熱電堆,金属の電気抵抗の温度変化を検出するボロメーター,半導体の抵抗値の温度変化を検出するサーミスターなどは,いずれも赤外線の熱作用を利用した間接的検出器である。気体の熱膨張によって,その容器の一部を形成している薄膜が変形するのを光学的に高感度で検出するゴーレイ・セルも一時期は多用された。これらの検出器には原理的には波長依存性がないが,検出素子を仕切るための窓材などにより波長選択性が現れる。一般に熱的検出器は応答速度が遅く,また感度もあまり高くない。

 半導体の内部光電効果を利用する検出器は近赤外領域では昔から用いられていたが,最近,遠赤外領域でもよい材料が開発されてきた。赤外線照射により伝導帯の担体濃度が増し電気抵抗が減少するのを検知する光伝導型と,担体が半導体中で分極し電位差が生ずるのを検知する光起電力型とがあり,後者のほうが多少速い応答速度をもつ。半導体を利用した検出器は,半導体のエネルギー準位構造を反映して,感度のある波長帯域が狭いのが欠点である。長波長領域では,接近したエネルギー準位を用いるので,固体自身のもつ熱エネルギーで担体が容易に励起されてしまう。このため中間赤外域では液体窒素で,遠赤外域では液体ヘリウムで検出素子を冷却して用いなければならない。硫化カドミウムCdS(0.3~1.6μm),硫化鉛PbS(0.3~3.2μm),セレン化鉛PbSe(77K,1.5~8μm),ゲルマニウムGe-金Au(77K,~10μm),カドミウムCd-水銀Hg-テルルTe(77K,~14μm),ゲルマニウムGe-銅Cu(4K,~27μm),ゲルマニウムGe-インジウムIn(1.5K,~500μm)などが代表的な半導体検出器である(( )内は使用温度と使用波長領域を示す)。そのほか半導体と赤外線の間のさまざまな相互作用を利用した検出器も開発されている。

マイクロ波分光と相まって赤外分光法は多くの分子の幾何学的構造,基準振動の性質を明らかにしてきた。その成果は,ガスや固体の赤外分光分析など工業的にも広く応用されている。電波天文学,X線天文学とならんで,最近は赤外線を宇宙を調べる手段として用いる赤外線天文学も注目されている。実用的応用としては遠景を撮影する赤外線写真,暗いところでも物体が見える暗視装置,無接触で高温をはかる高温計,ミサイルなどの追尾装置,赤外レーダー,半導体レーザーを用いた通信,サーモグラフィーなどがあげられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「赤外線」の意味・わかりやすい解説

赤外線
せきがいせん
infrared rays

目に見える光の波長領域に続き、長波長側にある電磁波。1800年、イギリスの天文学者F・W・ハーシェルが寒暖計を用いて太陽光スペクトルの分布を調べたところ、最高の温度を示す場所は赤色部の外側であったので、この部分に目に見えない光がきていることを確認し、赤外線を発見した。普通、0.7~1000マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)の波長範囲の光をいう。

 これをさらに分けて、0.7~20マイクロメートルを近赤外線、20~1000マイクロメートルを遠赤外線という場合もある。近赤外線は、物質中の原子やイオンの振動と、遠赤外線は原子団の回転と深い関係をもっている。近赤外線は、その振動数が分子振動の振動数と同程度であるので、吸収されると、直接物質中の原子やイオンの振動を励起し、物質の温度を高める。しかし、赤外線は量子としてのエネルギーが小さいので、光電子放出をおこしにくく、その検出には温度上昇効果または光電気効果(半導体などに光が当たった場合に電気抵抗が小さくなる現象)を用いている。赤外線は目に見えないので、一般にあまり気づかれないが、われわれの生活している空間は、真っ暗な場所でも、赤外線で満ちている。室温の物体からは10マイクロメートル前後の赤外線が盛んに放射されている。よく晴れた夜に地表の温度が異常に下がるのは、上空へ向かって放射された赤外線が脱出してしまうためで、放射冷却とよばれている。温室やビニルハウスはこれを防止する効果をもっている。

 近年、航空機の排気熱を感知して追尾する対空ミサイルや、暗闇(くらやみ)でも相手を見ることができる赤外線暗視装置などのセキュリティ・システムに用いられている。赤外線感知器の性能が向上したので、身近なところでは、近赤外線を利用した家電機器のリモコンや耳の穴に当てるだけで体温が計れる耳式体温計、気象衛星に搭載されて昼夜を問わず雲を観察できる赤外放射計などにも応用範囲が広がっている。

[尾中龍猛・伊藤雅英]

『『ニュートンムック 光とは何か?』(2010・ニュートンプレス)』

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百科事典マイペディア 「赤外線」の意味・わかりやすい解説

赤外線【せきがいせん】

熱線とも。可視光線の長波長端から,マイクロ波のミリメートル波にいたる,波長約700nm〜1mmの電磁波の総称。1800年F.W.ハーシェルが太陽スペクトルの赤色部外に発見。波長数μm以下を近赤外,25μm以上を遠赤外に分け,1.3μm以下を写真赤外部とも呼ぶ。分子内の原子または原子団の振動・回転の周波数は赤外線の周波数とほぼ同範囲にあるため,あまり高温でない物体からの熱放射はおもに赤外線によって行われ,また外部から入射した赤外線は物質原子と電磁的共鳴を起こして効果的に吸収されその温度を高める。短波長の赤外線はこの熱作用のほかに写真作用・蛍光作用(蛍光)・光電作用(光電効果)等をもち,通信・写真・暗視・自動警報器・物質鑑定等にも利用される。光源には赤外線電球等の温度発光体を用い,波長範囲を制限するには種々のフィルターや回折格子を使う。赤外線用のプリズムやレンズは水晶,ホタル石,岩塩,臭化カリウムなどで作る。長波長の赤外線の検出には,熱電対ボロメーターを用い赤外線吸収による温度上昇を測定するが,短波長域に対しては,約1.3μm以下に赤外線写真乾板,光電管,燐光(りんこう)体,約7μm以下には光導電セル光電池,約40μm以下には亜鉛を不純物に含むゲルマニウム検出器を使用。→赤外線分光分析
→関連項目可視光線赤外線暗視装置電磁波

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「赤外線」の意味・わかりやすい解説

赤外線
せきがいせん
infrared ray

赤色光よりも波長の長い光。熱効果の大きい性質をもつので熱線とも呼ばれる。波長範囲はだいたい 800nmから 1mmぐらいまでで,800~2500nm までを近赤外線,2500~25000nmまでを単に赤外線,25000nm以上を遠赤外線と呼んで区別することもある。

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化学辞典 第2版 「赤外線」の解説

赤外線
セキガイセン
infrared rays, infrared radiation

可視光線よりも波長が長く,1 mm くらいまでの電磁波.比較的可視光に近い波長のものを近赤外,遠いものを遠赤外というが,学問分野によって使い方が異なり明確な区分があるわけではない.[別用語参照]熱線

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「赤外線」の解説

赤外線

光のスペクトラムで赤色より波長が長く、人間の可視光線外の電磁波。空気中での透過効率が高いため、リモコンなどの遠隔操作に利用されている。

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栄養・生化学辞典 「赤外線」の解説

赤外線

 熱線ともいい,可視光線より波長の長い電磁波.波長は0.76μm〜1mm程度.

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世界大百科事典(旧版)内の赤外線の言及

【電磁波】より

…これを電磁波という。電磁波はその波長によって,一般に波長がmm程度以上のものを電波,それより短く1μm程度までを赤外線,0.7μmから0.3μm程度までを可視光,さらに短く数nmまでを紫外線,若干重複して10nmから1pmの範囲をX線,10pmより波長の短い電磁波をγ線と呼んでいる。重複している部分は,電磁波を発生するメカニズムに応じて呼称を変えているのがふつうで,また電波を電磁波と同義に用いることも多い。…

※「赤外線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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