化学辞典 第2版 「X線散乱」の解説
X線散乱
エックスセンサンラン
X-ray scattering, scattering of X-rays
物質によるX線の散乱.トムソン散乱とコンプトン散乱とに分けられる.物質にX線が入射すると,原子内電子がX線の周期的電場によって強制振動を受け,これらの電子が線源になって二次的にX線が放射される現象をトムソン散乱という(J.J. Thomson,1898年).この際,散乱X線の波長は入射X線と同じであり,可干渉性(coherent)である.偏りのないX線が入射した場合,自由電子による散乱X線の強度 Ie は次式で与えられる.
ここで,I0 は入射X線の強さ,Rは電子から観測点までの距離,mは電子の質量,eは電気素量,cは光速度,φは散乱角である.
(1 + cos2φ)/2
を偏光因子という.コンプトン散乱は非干渉性散乱であって,X線光量子が電子に非弾性的に衝突して入射X線の波長よりも長波長のX線が放出される.この現象をコンプトン効果という.入射X線の波長が短く,原子番号が小さい原子ほど効果はいちじるしい.散乱X線の波長増加δλは,
で与えられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報