日本大百科全書(ニッポニカ) 「トムソン散乱」の意味・わかりやすい解説
トムソン散乱
とむそんさんらん
Thomson scattering
長波長の光の自由電子による散乱。イギリスの物理学者J・J・トムソンが1910年に理論を提起した。電子の静止質量に比して十分小さいエネルギーの光(偏りがないとする)が電子によって散乱される場合、散乱の全断面積は、半径が電子の古典半径(r0=e/mec)である円の面積の3分の2という、エネルギーによらない一定の値となる。トムソン散乱は、長波長の光が荷電粒子によって散乱を受ける場合の特徴で、一般には電子による散乱に比して、荷電対質量の比の2乗倍の全断面積となり、荷電が大きいほど、また質量が小さいほど大きい。光のエネルギーが大きい一般の場合にはコンプトン散乱とよばれ、それを記述するクライン‐仁科(にしな)の式が用いられる。トムソン散乱は、コンプトン散乱の低エネルギー(長波長)極限にあたる。
[玉垣良三・植松恒夫]