コンプトン効果(読み)こんぷとんこうか(英語表記)Compton effect

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コンプトン効果」の意味・わかりやすい解説

コンプトン効果
こんぷとんこうか
Compton effect

電子によって散乱されたX線波長が長波長側に変化する現象コンプトン効果は、入射X線の波長や散乱体の種類によらない一方、散乱角度が大きいほど、また振動数の変化としては入射エネルギーが大きいほど、顕著に現れる。この効果は、1922年コンプトンによって物質によるX線の散乱でみいだされ、物質中の電子による光子の散乱として理解された。コンプトン効果は、光の粒子性(当時の光量子仮説)に対する直接的な実験的根拠を与えた。光子のエネルギーが、電子の静止エネルギーに比して十分小さいときの散乱は、トムソン散乱といわれ、散乱の度合い(全断面積)は入射エネルギーによらない。コンプトン効果は、光子と荷電粒子の間の相互作用による散乱過程であるから、電子に限らず陽子など他の荷電粒子の場合にも現れるが、効果は荷電粒子の質量が大きいほど小さいので、電子の場合がもっとも顕著に現れる。電磁場量子である光子(フォトン)が振動数ν(エネルギーはνにプランク定数hを乗じた値)で静止している電子に入射し、角度θの方向に散乱されて振動数ν'になった場合、特殊相対性理論によるエネルギーと運動量の保存則を適用すると、ν'がνとθの関数として与えられ、ν'はνより小さい。振動数と波長の積が光速cとなる関係によって、波長がλよりλ'に増大する変化量は2λcsin2(θ/2)となる。ここで、λcは電子のコンプトン波長とよばれ、電子の質量をmとするとき
  λch/mc=2.4×10-12m
である。

[玉垣良三・植松恒夫]

『朝永振一郎著『量子力学1』第2版(1977・みすず書房)』『原康夫著『岩波基礎物理シリーズ5 量子力学』(1994・岩波書店)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コンプトン効果」の意味・わかりやすい解説

コンプトン効果
コンプトンこうか
Compton effect

物質によって散乱されたX線のなかに,入射X線と同じ波長をもつもののほか,入射X線より長い波長のX線が含まれる現象。 1923年 A.H.コンプトンが発見した。入射するX 線が波ではなく粒子 (→光子 ) であり,波長が長くなるのは光子と電子の衝突に起因すると考えるとこの現象を説明できる。波長 λ の光子は hc/λ のエネルギーと h/λ の運動量をもつと考える。 hプランク定数c は真空中の光速度である。この光子が静止している電子に衝突し,電子は入射X 線の方向と θ の角をなす方向にはね飛ばされるものとし,古典力学エネルギー保存則および運動量保存則を用いて入射光子と散乱光子の波長の差を計算すると,(h/mc)(1- cos θ) で与えられる ( m は電子の質量) 。 hcm に既知の値を代入すると,この式は実験事実ときわめてよく一致する。 h/mc は電子のコンプトン波長と呼ばれる。また,散乱強度を θ の関数として示すと,クライン=仁科の式によってこの現象がみごとに説明される。コンプトン効果は,光が波動性のほかに粒子性をもたなければならないことを示した重要な現象の1つである。この現象を発見した功績により,27年コンプトンにノーベル物理学賞が授与された。

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