…日本神話の中の一つ。天津神(あまつかみ)の命を受けて磤馭慮島(おのごろじま)に天降った伊弉諾(いざなき)尊・伊弉冉(いざなみ)尊の男女2神が,そこに神の依代(よりしろ)である柱を立て,その周囲を回り合って,互いに愛の言葉をかけ成婚して,大日本豊秋津洲(おおやまととよあきづしま)をはじめとする大八島国を生む神話である。異伝は記紀2書,《古語拾遺》《旧事本紀》などに10種余を伝えるが,《古事記》が最も詳しく完成した姿を見せている。…
…本来は宗教的な神聖観念の一つ。罪と災いとともに日本古代の不浄観念を構成し,これを忌避する,忌(いみ)または服忌(ものいみ)の対象をいう。記紀には穢,汚,汚垢,汚穢,穢悪などと表記され,またケガラワシともキタナシとも読まれる。穢と罪とはきわめて密接な関係があって,多く罪穢(つみけがれ)と熟して用いられるが,罪が広く社会の生業を妨害し規範を犯して集団の秩序を破壊する意図的な危険行為を指すのに対し,穢は人畜の死や出血や出産など異常な生理的事態を神秘的な危険として客体化したものである。…
… 事実たとえば,日本神話の中のとくに特異で印象的な挿話の一つに,スサノオの〈泣きいさち〉の話がある。黄泉の国から帰った伊弉諾(いざなき)尊が,死者の国で身に受けた汚れを洗い清めようとしてみそぎをしたおりに,その鼻から出生したスサノオは,生まれるとすぐに父の神から〈汝が命は海原を知らせ〉と命令され,海の支配者に任命された。ところがスサノオはこの命令に従わずに,死んで黄泉の国にいる母の伊弉冉(いざなみ)尊を慕って,長いひげが胸元にのびるまで,猛烈な勢いで泣きわめき続けた。…
…聖婚神話(伝説)は,古代文明地帯やその影響圏においてことに発達し,その場合,しばしば宇宙論的色彩を伴っている(創世神話)。日本神話において伊弉諾(いざなき)尊と伊弉冉(いざなみ)尊が原初の島オノゴロジマで結婚し,大八州(おおやしま)と神々を生んだというのも聖婚神話の一例で,伊弉諾は父なる天,伊弉冉は母なる大地を表している。ポリネシアのマオリ族の神話では,天父ランギは地母パパと原初の暗黒のなかで抱擁し合っていたが,子どもの森の神タネによって引き離され,天地が分離した。…
…水浴して身体を清める宗教儀礼。神道では〈禊祓(みそぎはらい)〉といって身心の罪や穢れを水で洗い清める祓,すなわち浄化の所作とする。神事に当たって物忌のあと積極的に身心を聖化する手段の一つだが,服喪など異常な忌の状態から正常な日常へ立ち戻る一種の再生儀礼(生まれ清まり)でもある。古代中国では,《後漢書》礼儀志や《晋書》礼志にみえるように,〈春禊〉と〈秋禊〉とがあって,陰暦3月3日(古くは上巳)と7月14日に官民こぞって東方の流水に浴して〈宿垢〉を去ったという。…
…別に鐘山にある石で造った人の首の交互に開閉する左眼は太陽,右眼は月で,左眼が開けば昼となり,右眼を開けば夜になるともいう(《元中記》)。伊弉諾(いざなき)尊が左眼を洗って天照大神を,右眼を洗って月読(つくよみ)尊を生んだのと似ている。一方,古代インドの《リグ・ベーダ》の一つ,〈プルシャ(原人)の歌〉によれば,太陽はプルシャの目から生じ,月は彼の意から生じたという。…
…それまで〈モモ〉と呼ばれたのは楊桃(やまもも)であったが,のちには単に〈モモ〉といえば桃をさすようになった。しかし桃が魔よけの力をもつとする中国の思想は,実際に桃が渡来する以前に日本に伝わっていたとされ,記紀には伊弉諾(いざなき)尊が黄泉国(よみのくに)から逃げ帰った際に,桃の樹下に隠れ,桃の実を投げて黄泉軍(よもついくさ)を撃退させたとある。平安時代になると桃も栽培され,《延喜式》には12月晦日の宮中の追儺(ついな)には,陰陽寮から桃の杖(つえ)と弓,葦矢(あしや)が配られ,疫鬼を駆逐したとあり,また正月の卯杖にも桃が使われたとある。…
…死者の住むとされる地下の国。〈ヨモツクニ〉とも呼ぶ。〈ヨミ〉は〈ヤミ(闇)〉や〈ヤマ(山)〉と類義の語。また〈黄泉〉は漢語で〈黄〉は土の色を表し〈地下にある泉〉の意で死者の国をいう。《古事記》によると,伊邪那岐(いざなき)命は死んだ伊邪那美(いざなみ)命を呼びもどそうとして黄泉国へと赴くが,〈視るな〉の禁を犯してイザナミを視ると肉体は腐乱し蛆(うじ)がたかっている。驚いたイザナキはイザナミの追行をかわして黄泉比良坂(よもつひらさか)まで逃げもどり,そこを〈千引石(ちびきのいわ)〉でふさいでやっと地上に生還する。…
※「伊弉諾尊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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