一葉日記(読み)いちようにっき

改訂新版 世界大百科事典 「一葉日記」の意味・わかりやすい解説

一葉日記 (いちようにっき)

日記文学。樋口一葉が,1887年(明治20),16歳のときから終焉の年までの約10年間にわたって書きついだ生活記録で,途中脱落はあるが,メモや雑記を含めると七十数冊に及んでいる。半井(なからい)桃水との恋にちなむ〈若葉かげ〉〈しのぶぐさ〉をのぞけば,菊坂町時代が〈蓬生〉,竜泉寺町時代が〈塵の中〉,丸山福山町時代が〈水の上〉というように,ほぼ居住地べつに三つのタイトルがえらばれている。菊坂町での作家修業と桃水への愛,竜泉寺町時代の生活の苦闘,晩年の達観した心境文壇人との交友など,一葉の創作の舞台裏をかいま見せてくれるばかりでなく,明治の女書生のヒューマン・ドキュメントとしても深い感銘を誘う。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報