日本大百科全書(ニッポニカ) 「アラタ体ホルモン」の意味・わかりやすい解説
アラタ体ホルモン
あらたたいほるもん
昆虫のアラタ体から分泌されるホルモン。幼若ホルモンともよばれる。化学的にはテルペンの類とされる。昆虫の幼虫期における幼虫形質の維持と成虫時の卵の成熟促進が主要な働きである。昆虫は数回の脱皮ごとに成長し、最後に成虫化する。この過程で、アラタ体ホルモンは、前胸腺(せん)から分泌される変態促進ホルモンに拮抗(きっこう)的に働き、幼虫形質を維持した脱皮へと導く。最終齢期のアラタ体活性の低下、あるいは若齢幼虫のアラタ体除去は、このホルモンの欠如をもたらし、変態あるいは早熟変態を誘起する。幼虫器官である前胸腺の機能維持にもアラタ体ホルモンが必要とされる。幼虫最終齢期に不活性となったアラタ体も、成虫化とともに再活性化し、アラタ体ホルモンを分泌する。これにより卵の成熟が促進される。このほかアラタ体ホルモンは、生殖腺付属器官の発達、誘引物質の産生、体色の調節、糖の代謝など、広範な生理機能の調節に役だつとされる。最近、幼虫形質の維持という性質に着目し、害虫の成虫化を阻止しその繁殖を阻害する新種の薬剤としての利用が考えられている。
[竹内重夫]