節足動物など硬いクチクラで体表をおおわれた動物は,成長の過程で何回か古いクチクラを脱ぎ捨てなければならない。この過程を脱皮という。広くはヘビやイモリの脱皮,鳥類の換羽,哺乳類の換毛も脱皮に入れる。また,無殻の軟体動物で,体表がクチクラで覆われているウミウシやイソアワモチも脱皮をするし,線虫類では一生の間に4回脱皮をくり返す。
節足動物の甲殻類は,成体になっても脱皮をつづける。昆虫では無翅(むし)類は成体になっても脱皮しつづけるが,有翅類では,一生の間の脱皮回数はほぼ一定であり,4回(双翅目)~20回以上(カゲロウ)の幅がある。胚発生の途上,孵化(ふか)前に1度脱皮し,卵殻中で1齢幼虫となるが,これを胚脱皮という。しかし,ほとんどは幼虫から幼虫への脱皮であり,このあとさなぎで1回脱皮をするが,カゲロウの亜成虫を除き成虫は脱皮しない。
脱皮の過程は甲殻類,昆虫類ともに原則的には同一である。脱皮はクチクラの内層(内クチクラ)の表皮細胞からの剝離(アポリシスapolysis)から始まる。表皮細胞はクチクラ消化酵素(脱皮液)を不活性の状態で分泌し,さらにクチクリンcuticulinおよび原クチクラを分泌し細胞表面を保護する。やがて,活性化された脱皮液中の酵素がクチクラの外層(上クチクラ)を残して消化し,体内へ再吸収するとともに,新しいクチクラの内層の形成が進むが,これは脱皮後も継続する。脱皮少し前にクチクラ表面に開口する細管(孔管)を通して蠟物質(ワックス)が分泌され,体表を疎水性にする。脱皮直後に,脱皮腺からセメントが分泌されワックス層を保護する。
脱皮行動は,摂食をやめ,隠れ場所をさがし(とくに甲殻類は脱皮後の静止時に襲われやすい),静止することから始まる。腸をからにしたあと空気(水生のものでは水)をのみ,腸をふくらませ,血圧を上げる。その後,腹側筋の運動で体液を胸部に押し上げ,胸部背面に縦走する古いクチクラの薄い部分(脱皮線)を裂き,この開口部から外へ抜け出す(脱皮)。その後も空気(または水)をのみつづけ,腸に送るとともに筋収縮運動がつづき,血圧を上げて新しいクチクラを伸長,展開する。この運動は,とくに羽化脱皮のときに羽を広げるため顕著となる。脱皮後,クチクラの硬化・着色がはじまり,腸内の空気(または水)は排出され,口器が十分に硬くなった後に摂食活動が再開される。
脱皮過程でのクチクラ形成とアポリシスは昆虫では前胸腺から,甲殻類ではY器官から分泌されるエクジソン(脱皮ホルモン)によって引きおこされる。またクモ,ダニ,カブトガニなどや線虫類の脱皮もエクジソンの投与でひきおこされる。脱皮行動そのものは,鱗翅目では羽化ホルモンにより引金を引かれる。
甲殻類は脱皮後クチクラがカルシウム塩によりさらに硬化される。この塩は脱皮に際してしばしば吸収され,血中に溶解状態で,また胃石や体の一部にカルシウム塊chalkとして蓄え再利用される。
アメリカの東海岸ではガザミの一種の脱皮したてのものをとくにsoft shell crabとよび,殻ごと食べられるために珍重される。ヘビの脱殻は日本ではお守として使われることがある。ガラガラヘビでは第1回の脱皮はすべて脱ぐが,2回目からは尾端のうろこが脱落せずそのまま残り,1年約3回の脱皮ごとに重なり音響器官を形成する。古くなると外層から脱落するが,最高23層が報告されている。
執筆者:桜井 勝
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節足動物あるいは線虫のような硬いクチクラをもつ動物が、成長のため古いクチクラを全身同時に脱ぎ捨てることをいう。脊椎(せきつい)動物のヘビやカエルなどの皮膚の更新、鳥の換羽も脱皮とみなされている。昆虫の多くは成虫になるとそれ以上脱皮をしないが、シミのような無翅(むし)昆虫、甲殻類では成虫になっても脱皮を続ける。昆虫の脱皮では、まず分裂により細胞を増した表皮細胞層とその上にあった古いクチクラが分離する。表皮細胞層の上には新しい上クチクラ層がつくられる。古いクチクラのうち下側の原クチクラは消化吸収され、かわりに新しい上クチクラと表皮層の間に新たな原クチクラ層ができる。やがて古い上クチクラが脱ぎ捨てられ脱皮が完了するとともに、新しい表皮は伸展し虫体は大きくなる。このあと、新しいクチクラはふたたび硬くなり、虫の外側を保護するようになる。昆虫の脱皮には前胸腺(せん)ホルモンが、甲殻類ではY器官のホルモンが、脊椎動物の脱皮には甲状腺ホルモンが関係する。
[竹内重夫]
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…エクダイソンともいう。節足動物の脱皮を誘導するホルモンとして単離された,分子量464の水溶性ステロール。昆虫では,その作用時に幼若ホルモンが共存すると幼虫へ,微量の幼若ホルモン存在下ではさなぎへ,単独では成虫へと分化・脱皮させる。…
…ゾエア幼生は走光性を示しながら,顎脚の遊泳毛と腹部の屈伸運動によって活発に遊泳する。種ごとにほぼ一定の2~5回の脱皮の後にカニ型のメガロパ幼生となり,続く脱皮によって稚ガニに変態して底生生活に移る。直接発生のサワガニ類は卵が大きく,そのかわり50個内外であるが,海産の大型カニ類では100万個にのぼる。…
…体環節や脚などでは,クチクラは板状の硬皮板となっているが,硬皮板間は膜状であるために折り曲げることができる。クチクラは無制限に膨張できないので,成長に伴って一定時期ごとに旧皮を脱いで,新しいより表面積の大きいクチクラを形成する(脱皮)。なお,昆虫の気管や前・後腸は表皮の陥入によってできているので同じ構造をもつし,頭部では内骨格を形成している。…
…ただし外骨格は成長を阻止するという欠点がある。そのため周期的に脱皮せねばならないのが節足動物の宿命であり,脱皮の失敗および脱皮前後の無防備状態は,彼らの死因のかなりの比率を占める。 昆虫はこの外骨格を異節化によってさらに進化させた。…
…幼生の尾部は幼生が岩などの基盤に付着後,速いものでは数分以内に吸収され,続いて脊索,神経,筋肉などほとんどの幼生器官は退化してしまう。変態はしばしば脱皮を伴い,とくに節足動物では顕著で,甲殻類では脱皮ごとに体制が変化することもある。短尾目十脚類(カニ)では,ノープリウス→プロトゾエア(孵化)→ゾエア→メタゾエア→メガロパと異なる5段階の幼生をへて幼ガニとなるが,各段階のうちでも数回の脱皮を繰り返す。…
※「脱皮」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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