改訂新版 世界大百科事典 「誘引物質」の意味・わかりやすい解説
誘引物質 (ゆういんぶっしつ)
attractant
昆虫は,食物源,産卵場所,集合場所などを探すのに,それらから発散される化学刺激を手がかりにしている場合が多く,食餌誘引物質,産卵誘引物質などと呼ばれている。同種の異性が分泌,放出する誘引物質は,特にフェロモンと呼ばれているが,同種の異性以外の起源で,ある種の一方の性だけを誘引する物質がある。例えば,アンゼリカ油成分のメチルオイゲノールはミカンコミバエの雄成虫を誘引する一種の性誘引物質である。産卵誘引物質としては,アブラナ科植物成分のカラシ油があり,アブラナ科植物を食草とする昆虫の産卵行動を刺激する。多くの植食性昆虫の必要な栄養素は寄主がちがっても,ほとんど共通しているにもかかわらず,種によって寄主が違うのは,におい,味のような化学的刺激が誘引作用をもっているからである。このような寄主の成分を食餌誘引物質と呼んでいる。なお,こういった性質を利用して害虫を集める農薬が誘引剤である。
執筆者:高橋 正三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報