改訂新版 世界大百科事典 「アンドレルシャプラン」の意味・わかりやすい解説
アンドレ・ル・シャプラン
André le Chapelain
12世紀後半~13世紀初期の聖職者。生没年,伝記不詳。シャンパーニュ伯夫人マリーの宮廷付司祭を務めたらしい。若い友人にあてた指南書という体裁で,オウィディウスの影響の強い《恋愛論Tractatus amoris》を著す。第1部は恋愛の本質・発生に関する一般論に始まり,各階層の男女による恋愛討議を収める。第2部は恋愛の持続・衰え・終焉を論ずるが,前記マリーらの名流婦人による,そして後にスタンダールの《恋愛論》に取り上げられる〈恋愛判決〉を含むことで有名。第3部はそれまでとうって変わり,恋愛否定と女性攻撃に終始する。これを著者の豹変とみるか(ただし,1270年パリ司教は本書を禁書処分に付す),本音の表れとみるか,あるいは中世人らしい魂の二重性の典型例とみるかで,諸説は分かれる。ラテン語で書かれた本書は,これに言及する同時代の証言が少ないことから,実際の影響力については疑問視されるが,宮廷恋愛の資料として貴重である。
執筆者:新倉 俊一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報