自分が実際に経験した事実を証人が裁判所に対して陳述すること。証人に証言させる場合、実際に経験した事実により証人自身が推測した事項を供述させることもできる(刑事訴訟法156条)。たとえば、目撃した男の服装や背格好から、その男は証人の知っているAという人物であると証人が判断したことを述べさせるような場合である。また、この供述は、鑑定に属するものでも、証言としての効力を妨げられないし、さらに、特別の知識によって知りえた過去の事実に関する供述も証言である。
ただし、犯罪の被害者から証言を得る場合には特別の配慮がなされる。犯罪の被害者が証言する場合には、たとえば暴力団事件の被害者の場合にいわゆるお礼参りのおそれがあったり、また、少年被害者あるいは性犯罪の被害者などに証言をさせることでいわゆる第二次被害を生じさせるおそれもある。このような場合の対策として、従来は、被告人を退廷させたり(同法304条の2)、特定傍聴人を退廷させたり(刑事訴訟規則202条)してきたが、被害者証人を十分に保護するものではなかった。そこで、2000年(平成12)の刑事訴訟法改正により、被害者に証言を求める場合につき、以下の保護措置が講じられた。(1)裁判所は、相当と認めるときは、検察官および被告人または弁護人の意見を聞き、裁判官および訴訟関係人のいる法廷とは別の場所にその証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をするビデオリンク方式によって、尋問することができる。その対象となる証人は、性犯罪の被害者のほか、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、裁判官および訴訟関係人のいる法廷において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者である(同法157条の4)。(2)証人が、被告人や傍聴人の面前で証言することの精神的負担を軽減するため、証人と被告人や傍聴人との間に衝立(ついたて)を置くなどの遮へい措置をとることができる(同法157条の3)。(3)証人が著しく不安または緊張を覚えるおそれがある場合には、適当な者を証人に付き添わせることができる(証人付添人)(同法157条の2)。
証人が正当な理由なしに証言を拒むと、過料、罰金または拘留に処せられる(同法150条、151条、160条、161条)。ただし自己または近親者が刑事訴追や有罪判決を受けるおそれがある証言については証言を拒むことができる(同法146条、147条)。また、医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む)、弁理士、公証人、宗教の職にある者またはこれらの職にあった者が業務上知りえた他人の秘密に関する証言などについては証言を拒むことができる(同法149条)。
[内田一郎・田口守一]
過去のある時点に発生した犯罪事実の存在を、裁判の過程を通じて立証するためには、通常、(1)犯人自身の供述(自白)、(2)被害者や目撃者の供述(証言)、(3)犯罪に使われた道具や犯罪の結果生じた傷や破壊などの痕跡(こんせき)(物証)が用いられる。一般に、犯罪の被害者や目撃者は、あらかじめ予定されたできごとの観察者ではないので、知覚は不確かで、その記憶に基づく証言には思いがけない誤りが混入する。これらの誤りが生じるのは、(1)記憶する時点での見間違いや思い違い、(2)記憶している間に体験した他のできごととの混同や忘却、(3)想起する時点での勘違い、(4)想起したことを表現することばの不正確さ、などからである。
証言の心理学は、最初、(3)の「記憶を想起する時点(証言の時点)」での誤りができるだけ生じないようにする質問形式、すなわち尋問技術の研究から始まったが、その後、証言の信憑(しんぴょう)性を実験的に測定するなかで、われわれの日常体験――たとえば、クラス会でのメンバーの到着順や席順など――の知覚や記憶がいかに不正確であるかを証明する結果となった。なお、想起したことを表現することばの問題は、一般の面接法など、コミュニケーションの研究のなかでも取り上げられている。このほか、証言の心理には、証言動機の問題があり、裁判における真実発見に協力するという社会的動機のほか、報復を受ける恐怖、自分にも非難が向くかもしれないという不安、犯人に対する攻撃感情などが複雑に絡んで、証言行動を促進したり、抑制したり、歪曲(わいきょく)したりすることになる。
一方、犯人自身の自白の動機には、罪障感や償いの感情のほか、許しを期待する甘えの心理などがあるが、この点については、日本とアメリカではかなりの差異があり、その社会の責任についての考え方や罪障感の成り立ちなど、文化的背景が絡んでいる。また、幼児の証言能力の問題なども、広い意味での証言心理学のテーマである。
[瓜生 武]
『植松正著『供述の心理』(1964・日本評論社)』▽『ウンドィッチ編著、植村秀三訳『証言の心理』(1973・東京大学出版会)』▽『トランケル著、植村秀三訳『証言のなかの真実 事実認定の理論』(1976・金剛出版)』▽『グッドジョンソン著、庭山英雄他訳『取調べ・自白・証言の心理学』(1994・酒井書店)』▽『菅原郁夫・佐藤達哉著『目撃者の証言 法律学と心理学の架け橋』(1996・至文堂)』▽『菊野春雄著『嘘をつく記憶――目撃・自白・証言のメカニズム』(2000・講談社)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…裁判所その他の国家機関に対し自己の経験により知ることのできた事実を供述する第三者。その供述が〈証言〉である。裁判所で証言する証人の資格,権利・義務,尋問方法等は,民事訴訟法・刑事訴訟法に定められている。…
※「証言」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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