化学辞典 第2版 「ウィルキンソン錯体」の解説
ウィルキンソン錯体
ウィルキンソンサクタイ
Wilkinson's complex
クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム[RhCl{P(C6H5)3}3]のこと.1965年にG. Wilkinson(ウィルキンソン)一派によって合成され,詳しい研究がなされたので,今日この名称でよばれるようになった.三塩化ロジウムRhCl3・3H2Oと過剰のトリフェニルホスフィンとをアルコール中で加熱すると得られる.このとき,過剰のトリフェニルホスフィンは還元剤としてはたらいて,自身はトリフェニルホスフィンオキシドO=P(C6H5)3となる.深赤色の結晶.クロロホルム,ジクロロメタンに可溶,ベンゼン,トルエンに微溶.溶液は空気中の酸素と反応して[RhCl{P(C6H5)3}2]O2を生じる.水素とは常温・常圧で可逆的に反応してcis-[RhCl(H2){P(C6H5)3}2]を与える.一酸化炭素との反応では,trans-[RhCl(CO){P(C6H5)3}2]が得られる.さらにハロゲン化合物との酸化的付加反応も数多く見いだされている.この錯体のもっとも顕著な特性は,常温・常圧下でアルケンおよびアセチレンの有効な均一系水素化触媒としてはたらくことである.この触媒作用は,P(C6H5)3の一つが溶液中で解離しやすく,その空いた配位座へ基質が配位して進行するものとされている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報