日本大百科全書(ニッポニカ) 「トルエン」の意味・わかりやすい解説
トルエン
とるえん
toluene
代表的な芳香族炭化水素の一つ。トルオール、メチルベンゼンともいう。脂肪族と芳香族の性質をもつ化合物のなかで、もっとも簡単な構造である。
特異なにおいをもつ無色の可燃性の液体。水に不溶。石炭のガス軽油やタール軽油から得られる。石油化学工業では石油留分の接触リホーミングにより製造する。この方法では、メチルシクロヘキサン、1,2-ジメチルシクロペンタン、n-ヘプタンがトルエンに変化する。
トルエンのメチル基-CH3は、電子供与性の置換基としてベンゼン環の電子密度を増加させ、求電子置換反応をおこりやすくする。他方、ベンゼン環はメチル基の反応性を活性化する。トルエンは、ニトロ化により工業的中間体として広く利用されるo(オルト)-およびp(パラ)-ニトロトルエンを与え、これらのニトロトルエンの還元によりo-およびp-トルイジンが得られる。さらに強い条件下でニトロ化すると、爆薬として用いられる2,4,6-トリニトロトルエン(TNT)が得られる。また、クロロスルホン酸(クロロ硫酸)を作用させるとサッカリンの原料となる塩化-o-トルエンスルホニルを生成する。
塩素化は、鉄を触媒として暗所で行うとベンゼン環におこり、o-およびp-クロロトルエンを生成する。これらは溶剤として使われ、染料の原料となる。光照射下で塩素化を行うと、塩素ラジカルが発生し側鎖のメチル基と反応して、塩化ベンジル、塩化ベンザル、ベンゾトリクロリドが得られる。
酸化により安息香酸を生成する。適度な条件下ではベンズアルデヒドを得ることもできる。これらのトルエン誘導体は、染料、医薬、香料、爆薬などの製造に用いられる。トルエンを合成化学的用途の多いベンゼンやキシレンに変えるためには、不均化法や水素化脱メチル反応などが用いられる。また、トルエンそのものは溶剤やガソリン配合剤としての用途がある。トルエンの蒸気は中毒性があるので、吸入しないような注意が必要である。
[向井利夫]
トルエン(データノート)
とるえんでーたのーと
トルエン
分子式 C7H8
分子量 92.1
融点 -94.99℃
沸点 110.626℃
比重 0.87160(水15℃)
屈折率 (n)1.49693
引火点 4.4℃(密閉)
爆発範囲 1.2~7.1%