トルエン(読み)とるえん(英語表記)toluene

翻訳|toluene

デジタル大辞泉 「トルエン」の意味・読み・例文・類語

トルエン(toluene)

芳香族炭化水素の一。ベンゼン水素原子1個をメチル基置換した化合物。無色、可燃性の液体で特異臭がある。コールタールの分留、石油の分解・改質などにより得られる。染料・爆薬・合成樹脂などの原料、また溶剤として広く用いられ、シンナー主成分化学式C6H5CH3 トルオールメチルベンゼン

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精選版 日本国語大辞典 「トルエン」の意味・読み・例文・類語

トルエン

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] toluene ) 芳香族炭化水素の一つ。化学式 C6H5CH3 無色、可燃性液体。コールタールあるいは石油改質法の生成物から抽出・回収して得られる。合成繊維、染料、爆薬、医薬品、香料などの合成原料として重要であるほか、溶剤、分析試薬などに用いられる。メチルベンゼン。トリオール。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トルエン」の意味・わかりやすい解説

トルエン
とるえん
toluene

代表的な芳香族炭化水素の一つ。トルオール、メチルベンゼンともいう。脂肪族と芳香族の性質をもつ化合物のなかで、もっとも簡単な構造である。

 特異なにおいをもつ無色の可燃性の液体。水に不溶。石炭のガス軽油やタール軽油から得られる。石油化学工業では石油留分の接触リホーミングにより製造する。この方法では、メチルシクロヘキサン、1,2-ジメチルシクロペンタン、n-ヘプタンがトルエンに変化する。

 トルエンのメチル基-CH3は、電子供与性の置換基としてベンゼン環の電子密度を増加させ、求電子置換反応をおこりやすくする。他方、ベンゼン環はメチル基の反応性を活性化する。トルエンは、ニトロ化により工業的中間体として広く利用されるo(オルト)-およびp(パラ)-ニトロトルエンを与え、これらのニトロトルエンの還元によりo-およびp-トルイジンが得られる。さらに強い条件下でニトロ化すると、爆薬として用いられる2,4,6-トリニトロトルエン(TNT)が得られる。また、クロロスルホン酸クロロ硫酸)を作用させるとサッカリンの原料となる塩化-o-トルエンスルホニルを生成する。

 塩素化は、鉄を触媒として暗所で行うとベンゼン環におこり、o-およびp-クロロトルエンを生成する。これらは溶剤として使われ、染料の原料となる。光照射下で塩素化を行うと、塩素ラジカルが発生し側鎖のメチル基と反応して、塩化ベンジル塩化ベンザルベンゾトリクロリドが得られる。

 酸化により安息香酸を生成する。適度な条件下ではベンズアルデヒドを得ることもできる。これらのトルエン誘導体は、染料、医薬、香料、爆薬などの製造に用いられる。トルエンを合成化学的用途の多いベンゼンやキシレンに変えるためには、不均化法や水素化脱メチル反応などが用いられる。また、トルエンそのものは溶剤やガソリン配合剤としての用途がある。トルエンの蒸気は中毒性があるので、吸入しないような注意が必要である。

[向井利夫]


トルエン(データノート)
とるえんでーたのーと

トルエン

 分子式  C7H8
 分子量  92.1
 融点   -94.99℃
 沸点   110.626℃
 比重   0.87160(水15℃)
 屈折率  (n)1.49693
 引火点  4.4℃(密閉)
 爆発範囲 1.2~7.1%

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改訂新版 世界大百科事典 「トルエン」の意味・わかりやすい解説

トルエン
toluene


芳香族炭化水素の一つ。トルオールtoluol(e),メチルベンゼンともいう。1835年ごろに天然樹脂トルーバルサムtolu balsamの乾留物から発見されたのが名の由来。ベンゼンによく似た芳香をもつ無色,引火性の液体で,空気中で燃えるとき芳香族化合物特有の黒いすす(煤)を出す。融点-94.99℃,沸点110.626℃,比重d420=0.86694,屈折率nD20=1.49693。引火点4.4℃(密閉),7.2℃(開放)。水に不溶(100㏄の水に16℃で0.0047gしか溶けない),アルコール,エチルエーテルなど多くの有機溶媒とあらゆる割合で混合する。石炭乾留(コークス炉)の副産物として,また石油ナフサの接触改質法によって,ベンゼン,キシレンなどとともに生産される。塗料用溶剤として用いられるほか,合成化学原料としての用途がある。その主要例は図に示すとおりであるが,cの不均化反応およびdの水素化脱メチル反応は,トルエンを合成化学的用途の多いベンゼンやキシレンに変換する目的で行われる。
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化学辞典 第2版 「トルエン」の解説

トルエン
トルエン
toluene

methylbenzene.C7H8(92.13).C6H5CH3.石油の改質油中に,またコールタール中に存在し,これらから分離,精製される.はじめにトルーバルサムを乾留して得られたのでこの名称がある.無色,可燃性のベンゼン臭をもつ液体.融点-95 ℃,沸点110.8 ℃.0.867.1.4969.λmax 262.5 nm(ε 270).水に不溶,エタノール,エーテル,アセトンなどほとんどの有機溶剤とまざる.ベンゼンのメチル置換体であるが,メチル基の電子供与性のためにベンゼン核は親電子置換を受けやすい.2,4,6-トリニトロトルエンは爆薬TNTとして知られている.また,メチル基を酸化すれば安息香酸となり,塩素化すれば塩化ベンジル塩化ベンジリデンを経てフェニルトリクロロメタンとなる.工業的には,染料,香料,医薬品,そのほかの合成原料となるほか,溶剤やガソリン配合燃料として多量に用いられる.[CAS 108-88-3]

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百科事典マイペディア 「トルエン」の意味・わかりやすい解説

トルエン

化学式はC6H5CH3。芳香族炭化水素の一つ。メチルベンゼンとも。無色可燃性の液体。融点−94.99℃,沸点110.6℃,水に不溶,有機溶媒に可溶。爆薬,染料,医薬,合成樹脂などの原料,溶剤として重要。石油のリフォーミングで得られる。高濃度のトルエン蒸気を吸入すると,中枢神経の抑制による麻酔作用が現れる。繰り返されるとトルエン中毒と呼ばれ,シンナー遊びのような薬物依存性が生じる。(図)
→関連項目化学物質過敏症シックハウス症候群シンナー石炭化学石油化学染料

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トルエン」の意味・わかりやすい解説

トルエン
toluene

化学式 C6H5CH3 。トルオール,メチルベンゼンともいう。コールタール成分として発見されたが,現在では石油化学による重要な製品の一つである。ベンゼンに似た臭気をもつ無色の可燃性液体。沸点 110.6℃。水には難溶であるが,種々の有機溶媒とよく混る。医薬,香料,染料,トリニトロトルエン (TNT) などの合成原料。溶剤としても用いられる。

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