アセチレン(読み)あせちれん(英語表記)acetylene

翻訳|acetylene

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アセチレン」の意味・わかりやすい解説

アセチレン
あせちれん
acetylene

アルキンアセチレン系炭化水素)のもっとも簡単なもの。正式な命名法に従うと、エチンethyneというが、慣用名のアセチレンが頻用される。天然には存在せず、1836年イギリスの大化学者H・デービーのいとこであるデービーEdmund Davy(1785―1857)により発見された。

 無色で純粋なものは無臭気体。元来は炭化カルシウムカルシウムカーバイド、生石灰を無煙炭またはコークスと電気炉中で加熱して製造)に水を作用させて製造した。この方法で得られるアセチレンは不純物のため悪臭を有する。現在、工業的には天然ガスナフサなど石油からの炭化水素を高い温度で熱分解して製造する。その分子は次のような直線状の構造をとる。


炭素‐炭素三重結合の間隔は二重結合よりも短く、またそれに結合する水素との結合間隔もエチレンの場合のそれよりも短い。

 常温ではほぼ同体積の水にしか溶解しないが、アルコールやベンゼンなどの有機溶媒には溶け、とくにアセトンにはよく溶ける。アセチレンは高圧で分解しやすいため、珪藻土(けいそうど)にしみ込ませたアセトンに加圧して溶かし、ボンベで運搬する。

 アセチレンは燃焼すると発熱量が大きいので、酸素と混ぜて酸素アセチレン炎として、鉄の溶接や切断に用いる。また空中で点火すると、輝きの強い炎で燃えるので、夜店などでアセチレンランプとして用いられる。しかし、アセチレンの酸素または空気との混合ガスはきわめて爆発しやすいので、取扱いには充分の注意が必要である。アセチレンが空気中に2.5~81%含まれていると爆発する。

 アセチレンは三重結合をもつので、付加や重合をおこしやすい。水と付加すればアセトアルデヒドを生じる。ハロゲンハロゲン化水素と付加して1,2-ジハロエチレンや塩化ビニルなどのハロゲン化オレフィンを生ずる。また適当な触媒を用いてアセチレンを加圧下で反応させるレッペ反応により、さらに多くの付加反応を行うことができる。アセチレンの水素原子は酸性であるので、金属で置換されやすく、金属アセチリドを生ずる。しかし、銀や銅などの重金属のアセチリドは爆発性である。

 かつて石炭を利用していたころには、石炭を原料として、安価な電力を用いてカーバイドを生産し、これからアセチレンを製造し、それを原料として合成繊維やプラスチックを製造する工業が盛んであり、そのための工場も電力、石炭、石灰石を得やすい場所に立地した。1950年代、アセチレンに水を付加させてアセトアルデヒドを製造する工程で、触媒として用いた水銀化合物が環境の深刻な汚染をもたらした。しかし、現在では石油化学工業の発達に伴い、エチレンにとってかわられた。

[徳丸克己]


アセチレン(データノート)
あせちれんでーたのーと

アセチレン
  HC≡CH
 分子式  C2H2
 分子量  26.04
 融点   -81.8℃
 沸点   -83.6℃
 比重   液体 0.613(測定温度-80℃)
      個体 0.730(測定温度-85℃)
 引火点  35.18℃

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アセチレン」の意味・わかりやすい解説

アセチレン
acetylene

化学式 HC≡CH 。無色,毒性のある気体。カルシウムカーバイドから得られる。不純なものは悪臭があるが,純粋なものはエチルアルコールに似た芳香をもつ。沸点-83.6℃,常温で水には体積でほぼ1:1に溶け,アセトンにはよく溶ける。三重結合をもつので付加反応や重合反応を起しやすい。たとえば水を付加しアセトアルデヒド,ハロゲン化水素を付加し塩化ビニルやフッ化ビニルとなり,これらは合成樹脂,合成繊維の原料となる。さらにレッペ反応により種々の形式の化合物に誘導される。また,三重結合をもつ炭素に結合している水素は金属で置換され,金属アセチリドとなりやすい。酸素アセチレン炎として金属溶接や溶断に利用されるばかりでなく,有機合成原料として大量消費される。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報