クロロホルム(読み)くろろほるむ(英語表記)chloroform

翻訳|chloroform

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロロホルム」の意味・わかりやすい解説

クロロホルム
くろろほるむ
chloroform

脂肪族塩素化合物の一種で、トリクロロメタンともいう。エタノールエチルアルコール)またはアセトン次亜塩素酸カルシウムとの反応によって得られる(ハロホルム反応)。この塩素化にはさらし粉が用いられる。工業的にはメタンの塩素化により合成している。甘い芳香をもつ無色液体で揮発性がある。液体のクロロホルム不燃性であるが、蒸気は燃える。空気中で光により徐々に分解して猛毒ホスゲンCOCl2を生成する。

  2CHCl3+3(O)
   ―→H2O+2COCl2+Cl2
この反応はエタノールにより防止できるので、市販のクロロホルムには通常0.5~1%のエタノールが添加されている。光による酸化分解を防ぐために、褐色の瓶に入れ冷暗所に保存する。工業的にはフッ素樹脂の原料であるクロロジフルオロメタンの製造などに使われている。水道水の殺菌の際に塩素を用いると水中の有機物(フミン質)との反応によりクロロホルムが生成するので、その発癌(はつがん)性が問題となっていて排出が規制されている。規制は水質汚濁防止法などに基づいて行われていて、厚生労働省令では水質基準値を0.006mg/Lと定めている。

[廣田 穰]

医薬用

歴史的な吸入麻酔剤で、心臓腎臓(じんぞう)、肝臓を障害するほか、麻酔後の悪心(おしん)や嘔吐(おうと)も多く、ほかによい吸入麻酔薬が出現したことから現在では麻酔にほとんど使用されず、抽出用溶媒や分析試薬として用いられるにすぎない。なお、イギリスでは癌(がん)性疼痛(とうつう)の緩和用に使われるコカイン・モルヒネ混液(ブロンプトンミクスチャー)にクロロホルム水として使用されている。

[幸保文治]


クロロホルム(データノート)
くろろほるむでーたのーと

クロロホルム
  CHCl3
 分子量 119.4
 融点  -63.5℃
 沸点  61.2℃
 比重  1.4985(測定温度15℃)
 屈折率 (n)1.4486

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クロロホルム」の意味・わかりやすい解説

クロロホルム
chloroform

CHCl3 。別名トリクロルメタン。吸入麻酔薬の一つで,1847年スコットランドの産科医 J.シンプソンが最初に無痛分娩のため使用した。無色透明の液体で,揮発性が強く,独特の甘い臭いがあって不燃性,比重は約 1.5で水には溶けず,エーテル,アルコール,リポイドには溶ける。初期の全身麻酔薬として外科学史上では有名であるが,臓器毒性があるため,最近では医薬品として用いられていない。一般に溶解能が高いので溶媒として用いられるほか,フッ素樹脂の原料,分析試薬としても用いられる。

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